■世間一般から私に向けられる感情は、およそ二通り。好奇、あるいは憐憫。
……生まれつき腕のない女の子は、そんな同情が入り混じった視線に晒されて生きてきた。そんなある日、彼女は腕の欠損に興奮を覚えるアポテムノフィリアの男・白鷺に、誘拐・軟禁されてしまう。逃げ出す機会をうかがっていた彼女だが、その男が己に向ける感情が、憐れみなどではなく、純粋な愛だと気づいて……?





 理央先生のゼロサムオンラインでの連載作です。主人公は生まれつき両腕が欠損している女子高生。こういうデリケートな設定は色々と気を遣う必要があるため、投入するのはなかなか勇気が必要だと思うのですが、このあたりはゼロサムオンラインという比較的注目度の高くない媒体であるからこそ実現出来ているのかもしれません。そんな彼女はある日、街中で謎の青年・白鷺に声をかけられ、そのまま誘拐されてしまいます。誘拐したものの、彼は何か危害を加えてこようとはしません。力づくなんて全くせず、常に対話で紳士的にヒロインを納得させます。その異常な出会いに警戒心マックスだったヒロインですが、自分を「理想だ」と言い放つ白鷺に、段々と心を開いていき……というお話。


 誘拐からの軟禁という文面をそのまま呑み込むと、なかなか乱暴なことをしているように見えますが、その実力づくで連れ去るなどはしておらず、あれやこれやと白鷺が言葉巧みにヒロインを説き伏せ、連れてきてしまったというのが正しいです。初めて出会った人にいきなりついていくのはおかしな展開とも言えますが、ヒロインが自分に向けられる好奇や憐れみの目を意識していたり、自分は不完全で可哀想であるという自己評価があったりする中で、はじめて腕のない自分を白鷺が評価してくれたという背景があり、一定の納得感のある流れとなっています。





とにかくヒロインのことを自然な形で肯定する。そこにヒロインはだんだんと、心の拠り所を見出していく。




 アポテムノフィリアというのが、いわゆる性欲を伴うものなのかは知りませんが、白鷺に至ってはヒロインに触れようともしない、極めて紳士的な変態でございます。高層マンションに住み、仕事は在宅で、何をやっているのかは分かりませんがとりあえずお金持ちっぽい。家事もバッチリこなしており、ルールでは出入りも自由だという、この上ない生活がそこに。時折そのずる賢さが顔をのぞかせることがありますが、それ以外は極めてハイスペック。


 一方のヒロイン(後半に名前が明らかになります)は、冷静沈着で一歩引いたような視点で物事を見つめるローテンションな女の子。普通、誘拐犯相手であれば怖くて対峙など出来ないものでしょうが、白鷺のキャラクターもあってか、割りとズバズバと(極めて冷静に)口答えしたりするという。もちろん全面的に彼を信用しているわけではありませんが、日々の積み重ねにより、段々とその家や彼の存在が拠り所になっていき、態度を軟化させていく様子が可愛いです。


 設定やキャラクターなどから見ると、ストックホルム症候群を描いたお話とも取れますし、腕が欠損した少女とアポテムノフィリアの青年の需要と供給がマッチした歪な男女愛の物語とも取れなくもないですし、なかなか分類が難しい物語です。で、1巻読み終わった上で敢えて分類するならば、これは「日常もの」である、と。





シチュエーションはとにかく異常なんですけど、そこに緊張感はなく、しばしば笑いのネタが落とし込まれたりするあたり、後半に進むにつれて実にリラックスして読む事ができるんですよね。




軟禁状態で学校には行きませんから、舞台となるのは基本軟禁されている部屋。登場人物は二人だけで、これといった大きな事件が起きない中で、その二人の関係性の変化にフォーカスをあてて進んでいく……これ、フォーマットが日常ものだなぁ、と。もちろん白鷺の人となりであったり、ヒロインの悩みであったりと、色々とシリアスだったり暗い雰囲気は入ってくるのですが、それも世界の広がりを見せるほどではなく、二人の間で完結出来る、ある意味で小さなもの。
もしかしたら2巻に大どんでん返しな急展開が待っているのかもしれませんが、見るかぎりたぶんそこまで大きな動きは無いんじゃないかな。で、それでも別に全然良くて、このままでも普通に面白いし楽しめるという。なんだかとても不思議なお話を読んでいる気分になる一作です。



【感想まとめ】
劇的に面白いとかドラマチックとか、そんなことはないのですが、なんだかとても味わい深く、続きが気になるお話でした。良かったです。



作品DATA
■著者:理央
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:ゼロサムオンライン
■既刊1巻



ためし読み