■「だって姉さん、私、20年以上母オヤとしてしか生きてこなかったんだよ」
息子の旅立ちを見つめる者。娘を捨てざるを得なかった者。追憶の中に生きる母親を思う者……。6人の母親たちの孤独としあわせを描く芳醇な物語。





 「プリンセスメゾン」などを描かれている池辺葵先生のエレガンスイブの掲載作を集めた単行本です。タイトルからも分かる通り、母親をモチーフにした物語が収録された短編集となっています。計6編が収録されているのですが、うち2編は前後編のようなスタイルで、実質5種のお話が収録されている形。


 一口に母と言っても、その捉え方や描き方は様々で、本作でも色々な「母」を目の当たりにすることができます。母親をまさに真っ当している者、母親を卒業した者、また母親に思いを馳せる子供……。そんな様々な母親像を、これまた明るいものから静かなものまで、幅広く描いていきます。最初に率直な感想を言っておくと、どの物語も味わい深くて、本当に良い短編集を読んだなぁ、と。池辺葵の奥深さをまざまざと見せつけられたかのような感覚です。


 まず最初に収録されている『きらきらと雨』でガッツリ心掴まれて、2話目に収録されている『ザザetヤニク』で、「ほうほうこんな話も描けるのね」と感心させられた後、『夕焼けカーニバル』でこの上なく幸福な気持ちにさせられて、『ザザetヤニク』の後編となる『カラスの鳴く夜にヤニクは』がもう本当に切なくも心強い内容で。残り2つの『残照』『Stand up』は共に、人生の味わい深さと、これから先への希望を感じさせる内容で、読後感の良さと言ったらもう……。どれ一つとして”捨て”がありません。正直『ザザetヤニク』についてはパンチ力不足な感があったのですが、後編でしっかりガツンとインパクト残してくるから素晴らしい。


 どれも良かったのですが、個人的にお気に入りの物語についてお話しましょう。まずは1話目に収録されている『きらきらと雨』。学生生活を終え、もうすぐ社会人になる息子を持つ母親の日常が描かれます。これまで実家暮らしであったものの、会社では寮に入るということで、一緒に暮らす時間はもうわずか。平静に過ごすものの、その残り時間を彼にためにという想いはありますが、息子というのは実に素っ気ないもので、その思いをわかっているのかわかっていないのか、なかなか時間を共有することができません。物語としては会話も少なく、淡々と母の姿が描かれるだけで、極めて地味で大人しい物語なのですが、母の優しさや偉大さみたいなものがガンガン心を突いてきて、男としては読んでいて実に心が痛い。





母の都合は考えず、友達優先で予定変更。まさにあるあるで心が痛いです。ちゃんと救いのあるラストになっているのですが、読み終えれば「ちゃんと親孝行しよう」という気持ちにさせられる、そんな物語でした。




 その他気に入ったのは『カラスの鳴く夜にヤニクは』でしょうか。先述の通り、『ザザetヤニク』と2話セットになっています。舞台は教会の孤児院で、そこで仲良しなザザとヤニクという二人の女の子の姿が描かれます。いずれも親がおらず、そんな中でもたくましく生きていおり、親がいないなりの彼ら独特の人間関係を築いていくのですが、ある出来事がきっかけとなり状況が大きく変化するというもの。このお話に限らず、描かれる物語は孤児だったりきちんと育てられていなかったりと、過酷な環境下にある子どもの姿が描かれたりもしています。そんな中に置かれても、子供のイノセンスさは一貫して守られて描かれており、暗い背景の中にもきちんと明かりが見える物語となっています。これも最後の最後にザザが言い放った言葉があまりに感動的で、読んでいて思わず「おー」と声をあげてしまいました。





その他『夕焼けカーニバル』も、明るい話でないのですが、実に心温まるお話でした。ちょっと油断すると泣いちゃいそうになるぐらいなんですけど、やっぱり地味ですねぇ(笑)。




 後半に収録されている『残照』と『stan up』はどちらかというと明るい雰囲気の中で進んでいく物語。やはり女性は歳を重ねると強くなり、それらが集まるとよりパワフルになるのですね。これもまた一つの母のあり方なのでしょう。



【感想まとめ】
久しぶりにいい短編集読みました……というか、結構な名作なんじゃないだろうか。池辺葵の奥深さをまざまざと見せつけられました。問答無用でオススメ。



作品DATA
■著者:池辺葵
■出版社:秋田書店
■レーベル:ALC DX
■掲載誌:エレガンスイブ
■全1巻