■「丘の上のおばけ屋敷」と噂のある空澤家の一人娘・志津は、美郷哲と過ごすうちに、少しずつ本来の人間らしい感情を取り戻して変わっていく。だけどそれは別れのはじまりだった……!?憑依体質少女と家政婦男子のボーイ・ミーツ・ガール、感動の完結巻!




完結しました

 6巻発売、完結しました。年間ランキングでも1位に据えたりしていたのですが、振り返ってみればレビューしたのは1巻の時だけでしたね。もっと取り上げても良かったなと、今更ながら後悔です。


 さて、当たり前ですが1巻からしてみたら、取り巻く何もかもが変わった最終6巻。この結末はある程度見えていた部分はありましたが、やはり最後はヒロインの志津がきちんと独り立ちするというところがゴールになりました。独り立ちの形は実にわかりやすく、憑依していた面々との別れ(見えなくなること)がそれであり、そこに向けて、各々の思いを成就させるというアプローチが物語で取られていきました。そのため印象的には恋愛よりもヒューマンドラマに寄った印象で、ニヤニヤするシーンはやや少なめ。なんて志津が驚くほどに哲に惚れ込んで、素直にその感情を表に出すため、そのラブラブっぷりをまざまざと見せつけられることになるんですけどね(なんと胸焼けするぐらいに甘々)。





あなたは誰ですか…(困惑)

きれいな二重構造

 さて、かくして幸せな結末を迎えたこの物語なのですが、全体を振り返ってみると、この表現が正しいのかはわかりませんがきれいな二重構造になっていることに気が付きます。


 物語が始まった当初は、一人ではとても生きていけないような弱々しい志津という存在がおり、それを憑依している面々がサポートし、最後は哲というヒーローが彼女を救い上げるという構図のように見えました。この構図は見たとおりというところで、結果的にもそのような形になっています。ただこの物語の面白いところはそれだけでは無いというところ。まず憑依している面々が支えているのは志津だけかと思いきや、その中には哲の母・みれいがおり、陰ながら哲を見守っているのです。志津だけが見守られているのではなく、哲もまたちゃんと見守られていたというのは、互いが対等でなんとも幸せな構図だと思いませんか。


 またタイトルにもある”いばら姫”と形容されているのは、紛れもなくヒロインの志津であり、眠っていた彼女をヒーローの哲が起こすという物語を容易に想像することが出来ます。ただこの物語の場合、もう一人、文字通り眠っている人がいるんですよね。それこそが、哲の母(みれい)になるわけです。その後、哲の母が目を覚ましたかどうかはわかりませんが、雰囲気から察するにきっと幸せな結末が待っていることでしょう。そのきっかけを作ったのは紛れもなく志津であり、彼女もまた起こすヒーロー的役回りを果たしているというのがとても興味深いです。弱々しいだけのお姫様かと思いきや、こうして振り返ってみれば志津も哲と同じく、また誰かを救っていたというところに、この物語の素晴らしさや奥深さみたいなものを感じるのです。


100年も後の世界で目を覚ました女の子が本当に嬉しかったのは
自分の目覚めを待っていた、そういう人がいたことなんじゃないかしら
(中略)
それだけで人って生きていけるものよ



 病室で眠り続ける彼女自身が言い放ったこの言葉こそが、物語の”その後”を暗示しているように思えてなりません。

花がたくさん描かれていることに今更気づく

 作者さんのコメントを見ると、表紙の花は花言葉を元に選んでいるそうです。全てバラがベースなのですが、色によってその花言葉は異なるようです。どの巻を見ても表紙にはたくさんの花が描かれているのですが、振り返ってみると作中にも、実にたくさんの花が描かれていることに気が付きます。いわゆる表現効果としての花ではなく、花束や花壇や花瓶など、風景に当たり前のように溶け込んでいるから面白いです。ラスト近辺なんかは、花束持った志津が、桜の木の下で花びらを取るという、花に花を重ねるという。あの花とは無縁そうな志津のお父さんですら、5巻でカーネーションを買おうとするエピソードが挟み込まれていたりするから油断なりません。カナトへの供花なんかも、たぶんなんか意味があるんだろうなと思うのですが、いかんせん花の知識が乏しいので……。さて、なんだかよくわからない話になりましたが、ともあれ完結してよかったよかった。素敵な物語を、ありがとうございました!