■わたしはこの世界から必死にあらがっている……。
自分をこの世界に連れ出し、すぐに捨てた父親への嫌悪感から9歳の少女・るつぼは父親を許さないと決めて生きてきた。だが、そんな二人が期間限定で「親子」をすることになり!?





 「このマンガがすごい!Web」の8月オンナ編で3位にも選ばれた、糸井のぞ先生のBELOVE連載作です。まずは物語のあらすじからご説明しましょう。物語の主人公は9歳の女の子・るつぼ。母を幼くして亡くし、これまで親戚に育てられてきました。父親は出産の時に一度現れ、危険な状態にも関わらずるつぼを産ませることを決めただけであり、以降は全く関わりを持ってきませんでした。ところが今になって突然、るつぼ引き取りたいと連絡をしてきたのです。虐めてはいなかったものの、どこかるつぼを疎ましく思っていた親戚夫妻は、これはチャンスと夏の2ヶ月間限定で、父親と同居することを許可したのでした。かくして始まった親子やりなおしの生活ですが、生まれた時の記憶を持ち、さらに孤独な母の姿を目の当たりにしてきたるつぼは、父親のことを恨んでおり、当然上手くはいかず……というお話。





 るつぼは9歳という年齢の割にかなり大人っぽい思考の持ち主で、やや違和感を感じるほど。父親や大人たちへの恨みを、「しゃべらない」という態度で表しており、できるだけ一人で何事もこなしたいという、歪んだ自立心みたいなものが伺えます。どこか一歩引いた視点から、どこか冷めた態度で佇んでいるような感じの子供です。とはいえやっぱり子供は子供。その感情はちょこちょこと表情などから漏れ出してしまうという。




 そんなるつぼを引き取った父親・縞は38歳の小説家。これが実にいい男で、モテるんです。生粋の人たらしであり、周りの女性はみんな彼に好意を寄せているような感じすらあります。態度がスマートとか、そういうわけではないのですが、相手に何か与えてあげたいと心から思っているような、そんな優しさを行動・言動の端々から感じられるような人。それ故にモテるのですが、その優しさが全方位に発揮されるものだから、しばしば女性トラブルが起き、恋人とは長続きしません。今はショージという若い男の居候と暮らしており、そこにるつぼも加えた3人暮らしで、物語は進んでいきます。





縞がこんな態度を取るものだから、るつぼは放っておけないっていう。こういうところがずるい人。




 名前の出てきたショージをはじめ、脇役たちも個性的。縞の人たらしな気質ゆえか、男女問わず彼の周りには人が集まってくるため、なんだかいつも賑やか。特に重要な役割を担うのが、隣のカフェの姫子さん。頼れるお姉さんという感じで、縞の幼なじみで、縞とるつぼのことを優しい視線で見守ります。また本編には大きくからんで来ていませんが、一癖ありそうな絵師の女の子など、色々と面白そうな面々が勢揃い。


 頑なな態度で父親を拒もうとするるつぼと、どう接したら良いのか分からないながらも、彼女との距離を縮めようと努力をする縞の関係の変化を楽しむというのが、ベースとなる構図。そこに個性的なオトナの脇役達が、色を添えます。どれだけ頑固で大人っぽいと言っても、縞のその圧倒的な人たらし力の前では態度を和らげざるを得ず、気がつけば少しずつ親子っぽくなっているのが、なんとも微笑ましいんですよ。それでもやっぱり完全に気を許すまではいかないあたり、さながら野生動物のようで、それがまた可愛らしい。


2ヶ月という期間限定、喋らないという態度、明かされぬ母親と縞との関係など、日常を描きつつも劇的に変化が生まれそうな要素に富んでおり、この先の展開も気になるところ。その設定の異質さから、疑似家族ものとしてストレートな優しさや温かさを享受することは出来ていないですが、その分この作品独特の雰囲気で物語を楽しむことが出来、一風変わった読後感を味わえています。



【感想まとめ】
どこかひっかかりを覚えながらも、物語は文句無しで面白いし素敵。オススメの一作です。



作品DATA
■著者:糸井のぞ
■出版社:講談社
■レーベル:KC BELOVE
■掲載誌:BELOVE
■既刊1巻



ためし読み