■母を亡くして以来、何も話さなくなってしまった少女・凛々は、おばにあたるのばらが住む屋敷を訪れる。木々に囲まれたその屋敷には、たくさんの本とたくさんの猫たちが!屋敷に出入りする人々や幻想的な出来事に遭遇するうちに、やがて凛々は……。





 紺野キタ先生の新連載です。未だにスピカのレーベルで新刊が出るのですね。掲載誌はデンシバーズというところになるのですが、慣れ親しんだレーベルでということでしょうか。


 物語の主人公は、9歳の少女・凛々。母を亡くして以来、言葉を発することが出来なくなってしまった彼女は、父との折り合いの悪さから、おばののばらの家で一緒に生活をすることに。のばらは在宅で仕事をしており、屋敷にはたくさんの猫たちと本、そして同居人の女性・真耶さんが。しっかり者の真耶さんに、奔放で浮世離れしたのばら、そして個性的な猫たちや、屋敷に出入りする風変わりの人たちとの触れ合いから、少しずつ凛々は変わっていき……というお話。


 本作ですが、色々と意図を感じるタイトルですよね。百合作品とBL作品を想起させるLilyとRoseを両方使っているという。紺野キタ先生の作品はBLですら百合っぽくなる印象ですが、本作もちょっと百合の匂いがうかがえます。ヒロインが凛々でおばがのばらですから、登場人物にかけているのか、はたまたタイトルから想起しているのかはわかりませんが、何かしらのメッセージが込められていること請け合いです。(凛々の母親がゆりかなので、まさにですね)



凛々の心の拠り所は、母から貰った傘。いつも手放さず、心を閉ざした時には傘を開いて中に閉じこもってしまいます。


 主人公の凛々は、声を出せないということからも分かる通り、心に傷を負った少女です。佇まいはどこか不安げで、けれどもちゃんと子供らしい純粋さも持ち合わせている女の子。紺野キタ作品に共通して言えることですが、悪い人が出てこない中で、個性的ながら優しい人達に囲まれ生活をすることで、段々と本来の自分というものを取り戻し、成長していきます。健やかに育つ過程を描いた「つづきはまた明日」も素敵でしたが、こちらも同じくらい微笑ましく、心癒される様子が描かれます。


 そんな彼女と一緒に暮らすのばらは、実に自由奔放でかなり浮世離れした感じのする女性です。独立して暮らしていけているので、何かしらお仕事の才能はあるようなのですが、それ以外はからっきし。ただそれによって本人は困ることが無いので、極めて変な生活スタイルが構築されていくという感じ。また基本的に楽天家であるものの、時折情緒不安定になるなど、凛々と同様に彼女も心に傷を持つ女性で、凛々の再生と同様に、彼女の再生の過程についても少しずつ描かれていきます。


 そんな2人と共に暮らす真耶さんは、のばらとは打って変わってしっかり者。普通に昼のお仕事をしており、住まわせてもらう代わりに生活力の無いのばらの身の周りを世話しています。のばらとの関係はよくわからないのですが、仄かに恋愛や心理的依存の匂いを感じさせる関係で、色々と複雑なようです。個性的な人がたくさん登場する中で、常識人としてそれぞれのつなぎ役になってくれます。こういう面倒見が良くて仕事ができそうな女性は無条件で好きなので、好きです(謎の日本語)。



奔放なのばらに、しっかり者で面倒見の良い真耶、さらに近所の男の子が気にかけてくれるなど、素敵で優しい人たちに囲まれ、凛々は徐々に変化を見せていく。


 母の死であったり、なんだか重たげな背景があり、時折それが首をもたげて物語に影を落とすのですが、基本的には「悪者の居ない世界」で、少しずつ傷つく者たちが少しずつ立ち直っていくという、優しくあたたかい物語。この温もりを感じられる安心感に包まれた雰囲気は、紺野キタ作品ならでは。個人的には「つづきはまた明日」以来のヒットに感じられます。オススメ。
 



【感想まとめ】
表紙とタイトルからどんな作品なのやらと勘ぐっていたのですが、一度ページをめくれば優しい世界がそこに。好きな作品です。



作品DATA
■著者:紺野キタ
■出版社:幻冬舎
■レーベル:スピカ
■掲載誌:デンシバーズ
■既刊1巻



ためし読み