■おかだゆき、33歳、漫画家です。夫(漫画家)と娘(2歳)と穏やかに暮らしていました。生理不順で訪れた婦人科で、子宮頸がんと診断されるまでは……。家族や友人との絆、病室の仲間のあたたかさ、がんとの闘いを明るくつづる、かつてない闘病コミックエッセイ。





 漫画家の岡田有希先生による、闘病エッセイです。岡田先生は33歳の一児の母で、子育てをしながら漫画を描くママさん漫画家。旦那さんも漫画家で、少し調べれはわかりますが、某有名漫画の作者さんですね。慌ただしくも、家族3人幸せに暮らしていた中、突然のガン宣告により日々は一変。告知された時のショックに、入院へ向けた慌ただしい雑事、手術の恐怖や子供と離れ離れになることの辛さや不安……マイナスな感情が多く溢れる中でも希望を持ち前を向いた闘病の日々を、明るく描き出します。


  実はつい最近まで、妹が婦人科系のがん闘病をしており、漫画に描いてあるような生活を送っていました。身内の病気の話って、友人知人になかなか出来ないんですよね。それも重病であればあるほど、気軽に誰かに言いづらい。色々と吐き出したいことは溜まるのですが、それを捌ける場所がなく、ゆっくりと消化されるのを待つような感じなんです。そんな時にこの漫画を手にして、色々とあるあるだったり気づきがあったりしまして。作品紹介という体を取りつつ、とりとめもなく”闘病者の家族”という視点で色々と感じたことなどを書く形になるかと思いますが、ご了承頂ければ。

知らされたとき

 岡田先生の場合、生理不順から病院を訪れて見つかったのですが、ウチの場合は「お腹が張って違和感があるから行く」と病院に行き、そこで判明していました。たぶん行かない人は全然行かないレベルなんだろうなと思うわけで、本当に何か違和感があればちゃんと病院行った方が良いです、ほんとに。作中で先生が「良かったんだよ。良かった。」と言い放つシーンがありますが、捉えようによってはその通りなのだな、と。もちろん病気にならないのが一番幸せなわけですが、なってしまった以上、見つかるのはなるべく早い方が良い。でもいざ病気になってしまうと、そうは捉えられないんだろうなぁ、と。


 宣告された当人のショックは計り知れませんが、身内もものすごくショックなんですよね。特に両親はひどい落ち込みようで、本人の前では努めて明るく振る舞っていましたが、電話で話す声は涙声で、実家に帰ってもため息が絶えなかったです。私はその知らせを聞いた時に、会社の大きなプロジェクトの打ち上げでお酒を飲んでいたのですが、一気に酔いが醒めて、以降「心ここにあらず」で何してたかあんまり覚えていません(お酒飲んでいたからかも)。で、後日電話をかけてみるんですけど、驚くほどかけられる言葉が見つからないんですよね。励ますのも月並みな言葉しか出てこなくて薄っぺらいし、「辛さがわかる」なんて言えるわけも無いし、かといって脳天気に振る舞っても変だしと、元々二人で喋ることなんてそんなにないのですが、無言は無言でしんどい。一応言葉は出てくるものの、「これが正解じゃない」感がすごい。



岡田さんの場合、①絶句、②軽い、③過剰反応でパターン分けをしており、過剰反応が一番キツかったとのこと。


 

手術での選択と入院

 宣告からさほど間を置かずに、すぐ入院して手術という流れになるのですが、婦人科系というか、卵巣・子宮の場合、出産の可能性を残すか(残せるか)否かという選択があるんですよね。



本作でも岡田さんは、子宮は全摘を余儀なくされていますが、卵巣については温存するかどうかの選択肢が与えられていました。この決断は人それぞれで、そして女性にとっては極めて大きな決断だと思うので、岡田さんがどのような選択をしたかは本作を読んでもらえればと思います(大きな見所の一つです)。


 この件について、妹は家族の反対を押し切って、温存を選択していました。転移や再発のリスクを上げてしまうのはわかっていても、それでも子供を産める可能性は残したかったようです。それまで彼氏はいつつも結婚する雰囲気はなく、子供が欲しいといった言葉も聞いたことがなかったので、家族の意見に反してまでもその決断を下したことはとても驚きでした。あまり自分の意志を押し通すタイプでなかったので、はじめて彼女の本音を目の当たりにしたような気がして、何故だかわからないけど少し誇らしく思ったのを覚えています。というか、今思えば結婚へ向けた、彼への最大級のプレッシャーだったのかなとか思ったり。


 本作では岡田さんが入院している最中に、弟のお嫁さんが妊娠をするという一幕があるのですが、ウチもまさにこんな感じで、妹の病気が明らかになる少し前に、私の妻の妊娠がわかりました。「今度実家に帰る時に報告しよっか」なんて言っていたのですが、まさか手術のお見舞いのために実家に帰ることになるとは思ってもみず。ましてや子供を産む可能性を残すか否かの決断をしている前で、報告できるわけもなく、後日仕切り直して報告したのを覚えています。親にとっても初孫だったのですが、心から大喜びしづらいみたいな雰囲気でしたねぇ。


 また病棟はある程度同じ病気をしている方が固まる感じになるのですが、相応に入院期間が長引くので、妹も病棟の方と仲良くなっていました。治療が終わって退院する人もいれば、緩和ケアを選択して転院する人もいたりと、見た目ではどちらもそんなに違いが無いように見えるのに、ちょっとしたことで生と死が入れ替わるのだと、強く意識させられたのを覚えています。

手術

 かくして手術を迎えるわけですが、受ける本人は麻酔であっという間ながら、待つ家族にとっては恐ろしく長い時間となります。予定時間が予め告げられているのですが、実際は1時間ぐらい延びたんですよね。別に何も言われていないのに、「長くなってるってことは、想定より悪かったのかな」とか思ったり、やたらトイレに行ったり、本を読んでも内容は頭に入ってこず、テレビを見る気にもならず、5分おきに時計の針を見ていたような気がします。結局4時間ぐらいかかったと思うのですが、何もしていないのに本当に疲れました。その後しばらくして出産立ち会いを経験することになるのですが、正直出産立ち会いより疲れた感すらあります(とかいうと妻に怒られるので口が裂けても言えませんが)。


 で、手術が終わった後に家族が呼び出されるわけですが、まさに作中にあるように「これが摘出した腫瘍と臓器です」といきなりトレーに入った肉片を見せられるという。インフォームドコンセントの流れからなのか、先生が色々と「これが腫瘍で、これが卵巣、盲腸も取っちゃいました」とかいって色々解説してくれるんですが、グロテスクであるのはもちろん、まず「こんなに大きな塊が体から抜き取られて大丈夫なのか」と感じて一同絶句みたいな。ところでこの切除した肉片を見せるっていうのは、何のためにやるんですかね?貴重な経験であったことは間違いないのですが、そもそも何を目的としているのかあまり分かっていなかったりします。



 ちなみに作中では、岡田さんの旦那さんは漫画家魂でそれらを写真に撮るのですが、それが出来るって本当に凄いと思います。(というか、妻の手術の時もちゃんとデジカメ持ってきてるというのがまず凄い)。生きていて「人間の臓器を目の当たりにした時に取るべき行動」なんてシミュレーションするわけないじゃないですか。

子供との二人暮らし

 作中では、岡田さんが入院している間、旦那さんが子供の面倒を見るという描写があるのですが、ここは身につまされるエピソードが多かった。私も子育て真っ最中なのですが、やはり妻がいない中、子供と二人きりというのは色々と不安です。今でこそ1日ぐらいであれば全然1人で面倒見ていられるのですが、努めてやろうと思い立つ前は、どこに何があって、いつ何をすれば良いかもわからない状態でした。



そんなレベルの中で、コーディネートを考える余裕なんてあろうはずもない。


 なお妻もこの作品を読んでいたのですが、いきなり「あんたは黒パーカーに黒レギンス着せそう」と言われて憤慨しました。なんでだ。黒が一番まとまりが出て、汚れが目立たないから良いんだよ。あと前開きのパーカーは着せやすいんだ。


 旦那さんは週刊連載を抱える売れっ子漫画家で、そんな中でも妻の闘病に伴い休載をして子育てに専念したそうです。その決断を出来るということが、月並みですが「凄い勇気」だと思います。旦那さんの休載の影響に比べたら、自分の仕事なんて幾らでも代わりがいるんだから、もし自分の妻が病気に限らずこのような状況に陥ることがあれば、迷わず仕事を休んで良いんじゃないかと、ちょびっと言い訳がましさも含んだ「勇気」を貰いました。

抗がん剤治療

 岡田さんの場合は、抗がん剤治療はせずに放射線治療でしたが、妹は抗がん剤治療でした。妹が患ったガンは特殊なガンで、劇的に抗がん剤が効く代わりに、その抗がん剤以外の選択肢が実質的にないというもので、アナキラフィシーを起こしたら一発アウト(予後不良)というプレッシャーのかかる治療でした。初回投入時、いきなり顔が真っ赤になって呼吸困難になり投与を取りやめたのですが、その時の絶望感といったらありませんでした。その時ばかりは終わったかと、本人も家族もこれまでにないぐらいに落胆していました。ただ幸いアナキラフィシーではなかったようで、その後先生方の努力もあって、最初薄めて徐々に濃くして入れていくというやり方で投与が可能に。髪は抜ける、度々吐くというような、いわゆる絵に描いたような抗がん剤の副作用はあったものの、無事治療を終えることができました。


 

その後

 おかげさまで無事治療を完了し、今は経過を見ているところです。向こう5年間は再発の恐怖と戦い続けることになるわけですが(5年というのはあくまで区切りで、その後も一生再発の恐怖はつきまといます)、この病気がきっかけで結婚をし、今では幸せに暮らしている(と思います)。


 改めて振り返ってみても、とにかく明るいことや面白いことは本当に少なかったなぁ、と。たぶん岡田さんもそうだったと思うんですよ。割合で言ったら9.5:0.5ぐらいか、もっと少ないか。家族でそれなんですから、当人なんかもっとなんじゃないですかね。でもこの作品の場合は、表紙からもその雰囲気が伝わるかと思うのですが、かなり明るさの分量が多い。当事者であり、死の恐怖や治療の苦しみに直面していながら、ここまで明るい部分を拾い出して描いたという、そこにただただ感服するばかりです。これが作者さんの本意なのかはわかりませんが、そういう背景がありながら、このように描いているんだということを、噛み締めながら読んでもらいたいなと個人的には思いました。



【感想まとめ】
こんなエントリを書こうとしたきっかけは冒頭でも述べたのですが、実は一昨日、妹が再度手術をしたということもありまして。手術自体は原発となっていた卵巣とは別のところを切るってものだったのですが、事前の検査で再発の疑いあり(影が映っている)となっていまして、急遽内視鏡手術から開腹手術に切り替えたという。実際開腹してみたところ、特に問題は無かったのですが、こうした恐怖感とはこれからも向き合っていかねばならないわけで、なかなかしんどいなぁ、と。本人にのしかかるものからしたら、本当に毛の先にも満たないようなものだとは思うのですけれど。

 こうしてエントリを書いたことで、たまたまこのブログを読んだ方が、全然見知らぬブログの管理人の身内という、非常に縁の薄い(というか無い)人間の未来を、少しでも願ってもらえれば嬉しいです。それで何かプラスになるってことは無いのでしょうけど。無いよりはマシなんじゃないかと少し思ったり。

 また同時に、「さよならしきゅう」を明らかに自分語りのダシに使ったような形になって申し訳ない気持ちもあります。改めて、明るく素敵な闘病記だと思いますので、機会があれば是非とも手にとってみてください。

 なんだかとりとめもなく、またえらく長文になってしまいましたが、これで終わりたいと思います。ではでは。



作品DATA
■著者:岡田有希
■出版社:講談社
■レーベル:KC ハツキス
■掲載誌:ハツキス
■全1巻



ためし読み