■派遣OLの朱里は、”堅実”で”普通”の結婚をするために婚活中。高望みはしない、不幸にならなければよい。そんなリスクヘッジの日々を過ごす彼女には、実は気になる存在が……。地味で独身アラフォー女、”経理部のAI”こと田中さん。ある日、偶然にも田中さんの”正体”を見てしまった朱里は……?





 『砂時計』の芦原妃名子先生の新作です。掲載誌はプチコミで、ついに芦原妃名子先生もプチコミに流れてきたか……と。そして、さらに描くのは明らかに出オチっぽい色モノ系ですか…と。そんな寂しさみたいなものを感じて手にとったのですが、してやられました、面白いじゃないですか。さすがに『砂時計』や、『Piece』の初速ほどのインパクトは無いですが、『Bread&Butter』よりは好みというのが、1巻読んでの位置づけ。つまるところ、オススメってことです。

 物語の主人公は田中さん……ではありません。派遣OLで堅実に活きるため婚活という名の合コンに励む23歳・朱里。そんな彼女が最近気になっているのが、経理の地味社員・田中さん。メガネで化粧っ気も無く、地味で老けてて、けれども仕事はものすごくできる40歳。言ってみれば朱里とは住む世界の違う田中さんでしたが、最近身体のラインと姿勢が明らかに変わったのです。「絶対何かやっている……」そう思いつつも、話しかけることもないまま日は流れていきました。そんなある日、立ち寄ったペルシャ料理店でベリーダンスを踊るダンサーが、田中さんであることに気づいた朱里は、以来田中さんとお近づきにになりたいと、全力でアプローチをするのですが……というお話。



田中さんは表紙とは違ってこんな感じ。ブレない価値観を持って堂々とベリーダンスをしているわけではなく、あくまで恥ずかしいという感覚を持って、隠れながらやっている。


 これはジャンル的には何になるんですかね。なかなかジャンル分けが難しい。ヒロインの朱里には、家に度々訪れては泊まっていく(でもセックスとかはしない)微妙な距離感の腐れ縁な男友達がおり、恋愛要素や人間関係のもつれ的な方向に発展しそうな要素もあり。でもメインは田中さんとの関係なんですよね。これもまたちょっと変わっていて、田中さんと仲良くなりたくてストーキングするレベルの朱里に対して、田中さんはちょっと迷惑そうな感じ。お友達という感じはしないのですが、朱里のゴリ押しによって結果的に近くにいるという、不思議な関係が築かれます。多分一番しっくり来るのは「ファン」という表現でしょうか。なので女の友情ものかと言われると、それもまた違うし、ましてやベリーダンスを軸としたワンテーマの趣味ものというわけでもありません。


 40歳ながら、ベリーダンスという趣味を持って、美しく真っ直ぐ打ち込む田中さんに感化され、朱里もその生き方や考え方を自然と変えていきます。思っていることを飲み込んできたりだとか、男に好かれるために媚びてきたりだとか、生ぬるい環境・関係に甘えていたりだとか……そういったそれまで良しとしてきた、自身の中にある中途半端さからの脱却を図ろうと、田中さんの背中を勝手に(物理的に)追いかけ、動きはじめるのです。

 さらにそこにもう一つ面白い要素が落とし込まれるのですが、それが偏屈エリート銀行員の笙野。真剣に結婚を考えている真面目人間ではあるものの、その口の悪さが災いしているのか、36歳にして未だ独身。朱里とは合コンで出会うも、「媚びすぎ」と速攻で帰宅するなど、その偏屈っぷりはなかなか根が深そうです。彼は田中さんともちょっとしたきっかけで知り合うことになるのですが、その口が災いして、一悶着。あまり書きすぎるとネタバレになるので避けますが、ちょっとしたサスペンス要素(言うほどサスペンスでも無いが)も入ってきそうで、これから物語がどう転がっていくのか非常に楽しみ。加えて言えば、その絶妙な年齢から、朱里とも田中さんとも恋愛に発展できるポジションにいるっていうのが、またお得感あって良いですね。

結婚という目標があり、それに対して男性に媚びるような格好で合コンに参加してしまう。どちらかというと他人に依存するような、自分ひとりで立って進むことのないような生き方。そんな中、田中さんは一人でしっかりと生きて、目標を持って進んでいる。そりゃあ感化されます。けれど結局朱里のアンテナが、結婚というところから、田中さんという存在に切り替わったってだけで、誰かに依存しながら生きようとする構図は変わらないんじゃないかとも思うんですが、まあそういうのは気にしなくてよいのか。見た目は同じでも、質が違うってことなんでしょう。

 ここまで書いてきて分かる通り、この作品をどういう物語として捉えるべきなのか、未だによく分かっていません。ベースラインは、中途半端な生き方をしていたヒロインが、田中さんというこれまでいなかったような人種に出会ったことで、その人生を変えていくというお話。ただそのその過程が奇妙でファンキーで、とにかく普通じゃない。で、面白い。出オチ一発ネタな物語なんかじゃ全然ないです。むしろめちゃめちゃ真っ当なヒューマンストーリーですよ。オススメです。

 


【感想まとめ】
してやられました。面白かったです。そしてこの手の作品は、変に期待しちゃって結果下げみたいなこともないと思うので、割と安心して読めるという利点もあり。



作品DATA
■著者:芦原妃名子
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:プチコミ
■既刊1巻



ためし読み