■人生を変えるくらいの大切な出逢いがあった。でも、私はあなたに、まだ何も返せていない……。
晴田真帆は、大ヒット作を完結させた26歳の漫画家。いよいよ新連載を始めるはずが、担当編集の嵐に「何も描けない」と告白する手紙を送る。実は真帆が描いてきた漫画は、10年前に亡くなった先輩の設定ノートを形にしたもので、真帆の心には「ある後悔」が残っていた……!!





 『宇宙を駆けるよだか』『箱庭のソレイユ』の川端志季先生のKISSでの連載作になります。これまでの川端先生の作品のイメージって、『宇宙を駆けるよだか』を筆頭に、学校内のカーストの下位の人の悪意だとか嫉妬といった、ネガティブな部分を肥大化させて描く印象があって、「面白いけど苦手だな」って印象だったんですよね。かなり捻くれている印象というか。で、これの対局に位置するのが、河原和音先生ってイメージ。ポジティブ&正論を弱ってる人にすらぶつけてきて、励ましてる感じ出しつつ殺しにくるやつ。どちらも極端に振れすぎていて、読むのに結構体力使ってたんですよ。


 で、今回のこれ『世界で一番早い春』です。冒頭のあらすじ紹介にもある通り、亡くなった先輩の漫画の設定を流用してヒット作を生み出していた主人公は、そのことについて後悔の念を抱いていたのですが、部屋で転んだ表紙に何故か高校時代にタイムスリップ。最初こそ夢だと思っていたものの、一向に醒める気配のない中で、タイムスリップを確信。抱いていた後悔を払拭するように、先輩との日々を再スタートさせるのでした。


 タイムスリップものということで、今回もSFです。もはやミステリーやサイエンスフィクションは川端先生のお家芸になっている感がありますが、本作、これまでの作品と決定的に異なっていることがあります。それが、作品の印象が底抜けに明るいというところ。これまでは妬みや嫉みや恨みやつらみや悩みみたいなものが少なからず渦巻いている印象だったのですが、本作に関してはそういう雰囲気が無いんですよね。まずヒロインが結構アホっぽくて、目の前のことに一生懸命になる熱血さと、周りから突っ込まれがちでどこかコメディチックに仕上がるというのがまず大きい。先輩と再び出会えたという喜びのもと行動するので、自ずと雰囲気は明るくなります。



再会してのっけからこれ。嬉しすぎてテンションおかしいので、自ずと明るい感じになっちゃうっていう。


 先輩もまた、好きなことに一生懸命という裏表の無さそうな性格が好印象の爽やか青年。単純なヒロインと熱血な相手役ということで、そりゃあこれだけ印象も変わりますよね、と。そんな中で、唯一川端志季的エッセンスを湛えるキャラクターが、生徒会の嵐くん。これ、未来の担当編集なのですが、主人公が所属する漫画部にもあたりが厳しかったり、ちょっとシニカルな印象。なんて、彼は彼で色々思うところあってそういうキャラクターになっているということが明らかになるんですが、こういう雰囲気の調整役もいますよ、ということ。



超絶さわかやな先輩。もしこれで彼に裏とかあったらたぶん泣く。


 主人公が抱く後悔とは「先輩にこの作品を返したい」というもので、タイムスリップした先では、自分の活動はそっちのけで、先輩の漫画作りを手伝うことになります。漫画を描くスキルはそのままですから、超人的なサポートができるわけで、少しずつ過去とは違ったルートを辿ることになります。そうすると、かつて経験することのなかった展開に陥り、あたふたすることになるわけですね。そんな中、無事に彼女の思いを果たすことができるのか……というのが、物語の大きな見どころとなります。


 さらにこれ、ネタバレになっちゃうんですが、タイムスリップは1回で終わりでなく、普通にまたやり直しできちゃうってのがポイント。こういうのは何見ても『君といた未来のために』と思っちゃうぐらいの世代なんですけれども、この安易にループしちゃう安売り感がまた良いではないですか。『宇宙を駆けるよだか』では、入れ替わりを死ぬことで実現していて、それをいとも簡単にやっていて「おいおい…」って思ったんですが、こちらはタイムスリップの方法も比較的楽だし、何よりそれが許される程度の緩さと明るさのある作品で、個人的には歓迎の流れ。これまでどちらかというと苦手な印象のあった川端作品ですが、本作はそれを一切感じずにめちゃめちゃ楽しんで読むことができました。早く続きが読みたい、オススメの一作。



【感想まとめ】
川端先生の印象が大きく変わった一作でした。何より読みやすくて親しみやすくて、面白かったです。



作品DATA
■著者:川端志季
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS
■既刊1巻



ためし読み