■TVの華やかな世界で笑顔を振りまく大人気アイドル。かたや、せっかく就職できたデザイナーの仕事を辞めて、パチンコ店で働くしょぼくれた俺。そっくりな顔なのに……。双子なのに……。今までずっと『同じ』だと思っていたのにある日突然、気がついてしまった。”あいつ”と”俺”、一体何が違うっていうんだぁ……!とあるパチンコ店員AとアイドルAの、こけて、つまづいて、時々起き上がる双子の物語。





 Comic it、結構いい作品多いので堅実に経営されてるものだと思っていたのですが、サービス終了ですか。意外というか、Web媒体と言えどこの業界でやっていくのはなかなか大変なのだなぁと感じさせられますね。というわけで今回ご紹介するのは、Comic itの連載作『パチンコ店員Aはアイドルになれない』です。


 物語の主人公は、パチンコ店でアルバイトとして働く青年・吉木。就職先のデザイン事務所を辞めて、流れ流れてこの場所にたどり着き、未来にこれといったアテも無く日々生活を送っているのでした。そんな彼の双子の弟は、現在人気急上昇中のアイドル・伊武駿。顔が同じ双子なのに、かたやパチンコ店員で、かたや華やかなアイドル。どうしようもなく広がった差に打ちひしがれながらも、懸命に生きる青年の姿を描きます。


 パチンコ店でアルバイトをすること自体は別に全然良いと思うのですが、主人公の場合、これといった目標も無く、ただただ双子の弟との落差ばかりに目が行ってしまい、どん詰まりの人生がさらに暗く見えてしまうという負のスパイラルに陥っており、なんていうかなかなか救いようのない状態。生活の質はどんどん落ちていくし、口も悪くなるし、人間として崩れていっているのが手に取るようにわかる感じ。そのときに抱いている感情だったり、行動だったりが妙にリアルで、この上なく惹きつけられるんですよね。



お布団で悶々。自分も置かれた状況を鑑みて、落ち込む図。


 パチンコ店がどういう職場なのかはわかりませんが、バイト先での知り合いは2人。一人は医学部志望の浪人生だという青年なのですが、彼が人との距離感をつかめないし、明らか勉強していなさそうな、わかりやすいダメ人間なわけですよ。で、吉木と仲良くしようとするわけですが、同じくダメな匂いを感じ取っているのか、ナチュラルに見下している感じがもうムカつきまして。「でもこういうやついるよね」とこれまた妙なリアルさに、一層物語に惹き込まれるわけです。


 で、ここまではダメ人間の負の感情渦巻くリアルさについて書いてきたわけですが、掃き溜めに鶴じゃないですが、素敵な女の子もいたりするわけなんですよ。それが女子大生の花江さん。しっかり者で先も見据えていそうで、それでいてなんやかんや吉木の話も聞いてくれたりする良い子。あろうことか吉木は彼女に対して暴言を放ってしまうわけですが、自ら関係修復を計りに来るところとか、律儀だし、逃げてばかりの吉木とは対照的に映ってこれまた素敵なんですよね。ばっちりヒロインというか。



ズバッと物言う花江さん。くよくよしがちな主人公を、しっかりと言葉で導いてくれる素敵な女性です。


 舞台となるのはパチンコ店とその周辺で、なんともキラキラ感に欠けるのですが、この底辺感がなんとも言えない面白さを生み出しているんですよね。物語的にはここから抜け出すなり、一歩上を目指すなりの展開が必要になるわけですが、果たしてどのような結末を迎えるのか。なかなかきっかけを掴めずにいる主人公ですが、弟の人気が上昇すると共に、平穏ではいられなくなってくるわけで、そんな状況をどう受け止め、自身の糧にしていくのか、そのへんに注目しながら楽しみたい一作。どうやら物語は最終回も間近とのことで、2巻完結となりそうですが、発売が今から楽しみです。てかちゃんと発売しますよね……?(ちょっとした不安)



【感想まとめ】
救いようのない状況だけど、ちゃんと救いがある物語になってる。こういう味のある作品、好きですね。オススメです。



作品DATA
■著者:糸なつみ
■出版社:KADOKAWA
■レーベル:it comics
■掲載誌:comic it
■既刊1巻



ためし読み