■16歳の茉莉亜は、父譲りの金髪と碧い眼を隠して生きてきた。その異端の外見は、周囲の人から倦厭され、差別を受けるから……。異国に帰ってしまった父、目立つなと厳しく叱る母……。憧れの女学生を横目に、俯いてやり過ごす日々。しかし、名士・黛家の子息である麟太郎に本当の姿を見られ、思わぬ言葉をかけられる。「おまえ……人魚姫みたいだ……」。その日から茉莉亜は、身分も、出自も超えた世界に飛び込んでいく……!





 宮坂香帆先生の新連載です。キャリアを重ねると、読者年齢が上の雑誌に移っていく漫画家さんも多い中、宮坂先生は未だにCheese!で連載を続けていて恐れ入ります。直近の『10万分の1』も、実写映画化決定ですから、何ならこれまでのキャリアで一番勢いがあると言っても過言ではないかもしれません。さて、そんな乗りに乗っている中で送り込んできたのがこちらの作品。


 時は明治、文明開化で栄えた港町・横濱が舞台のラブロマンス。物語の主人公は、この時代には極めて珍しい、ハーフの女の子。異国人である父譲りの金髪碧眼の持ち主である茉莉亜は、その外見の異端さゆえに、その存在を隠されるように生きてきました。外に出る時は、髪の毛は黒く染め、前髪で眼を隠し、俯きながら歩きます。ある日、母が女中として、名士・黛家に仕えることになり、黛家の子息である麟太郎にその美しさを見出されたことで、彼女の下ばかり見ていた人生に変化が……というストーリー。





表紙に描かれているのがヒロインですが、作中のイメージとはかけ離れています。




 それもそのはず、表紙が”使用後”だとしたら、1巻時点で描かれているヒロインの姿は”使用前”で、いかにも「導入」という感じのスタート。横濱という土地柄、ある程度異国人にも寛容なイメージもあるのですが、なかなかそうはいかないようです。父親はすでに帰国しており、茉莉亜は父の名前すら知りません。自分の存在は異端であり、「存在してはいけない」ぐらいに捉えているヒロインはなかなか不憫ではあるのですが、そもそもシングルマザーすらも珍しい時代でしょうし、娘に辛く当たる母親の気持ちもわからないでもないなぁという感想もあったり。まあそんなのは、本作を楽しむ上では余計な感情なんですけれども。


 さて、ひょんなことから名毛のご子息に見出されることになる茉莉亜ですが、1巻ではようやく出会って相手を信頼し始めたぐらいで、具体的にどう外へと歩みだしていくのかは描かれません。2巻以降その辺が描かれていくのでしょうが、1巻時点でもよく出来たラブロマンスという感じで実に良い。ともすれば退屈になりがちな導入ですけれども、本作に関してはシンプルかつオーソドックスながら、丁寧な仕上げでしっかりとそれを「王道」に仕立て上げている感じとでも言いましょうか。そのあたりはさすが宮坂香帆先生といったところ。


 『10万分の1』もそうですし『あかいいと』もそうですし『僕達は知ってしまった』もそうですけれど、逆境を抱えたヒロインが、自分のことを承認してくれる存在に出会い、彼の存在によってその逆境を様々な形で克服していく……というのが、設定やフォーマットこそ違えど、宮坂香帆先生の作品の軸にあるもので、本作もまた同じ構図となっています。というか今回はめちゃめちゃわかりやすいですよね。明治時代のハーフというハンデと、既成概念にとらわれない名士の子息という、承認装置としてヒーロー。





麟太郎の言葉に、これまで自分を卑下してきた茉莉亜は変わりはじめる。




 『10万分の1』なんかは、それが病気という形で落とし込まれていたわけですが、個人的には「ありきたりだな…」という印象があったんですよね。それが今回は、この舞台設定で、こんなキャラクターと、「結構変化させてきたな…」と。加えて、このシンデレラ的ロマンスが、宮坂香帆先生が描いてきた軸とピタッとハマるような、極めて親和性が高い印象があります(実際面白いし)。スタートはわかりやすいシンデレラストーリーなわけですが、おそらく巻数が進むごとに、完全無欠に見える麟太郎にも色々な弱さや悩みが浮かび上がり、より複雑で深みのあるストーリーへと変容していくことでしょう。この明治という時代設定がどこまで受け入れられるかですけれども、個人的には既に勝ちパターン入っているなという感覚なので、全力で追いかけたいと思います。おすすめ。



【感想まとめ】
明治・大正ものって結構手堅い印象あるんですけれども、本作もまた。宮坂香帆的な雰囲気を十分に味わいつつも、歴史ラブロマンス的要素も楽しめる、2度美味しい作品でした。



作品DATA
■著者:宮坂香帆
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:cheese!
■既刊1巻



ためし読み