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■9月6日は黒髪ロングの日だそうで。黒ロン祭2015開催おめでとうございます。主催の水星さんとは面識はあるのですが、この企画に関しては2010年に祭りとは全く異なるタイミングでまとめ記事を書いて以来ずっと不参加でございました。実は記事では「5年後…」なんて言っていたのですが、まさかこうして5年後本当に書くことになるとは。私のブログもこの企画も、ここまで続くなんて全く思っていませんでしたから、なんだか感慨深いものがありますね。

さて、そんな前置きはこのくらいにしておいて、本題に。


別冊マーガレットにおける黒髪ロング

 2015年は黒髪少女漫画の金字塔『君に届け』の連載がはじまって10年の節目となります(時が経つのは早いですね……)。連載がはじまった当初、爽子のキャラクターや出で立ちはかなり衝撃的で、椎名軽穂先生自身も「イロモノヒロイン」と爽子のことを表現していました。その象徴とも言えるのが黒髪ロング。

 少女漫画は黒髪ロングのヒロインはとても珍しく、いつの時代も少数派という印象があります。理由は様々考えられますが、例えば「読者の感情移入の対象として描き出すには、記号的すぎる髪型はそぐわない」とか、「ベタ塗りが辛い(あとがきなどに結構書いてある)」などが挙げられるでしょうか。こと別冊マーガレットについては、現実的な舞台設定の中で等身大の恋愛を繰り広げる作品が基本であり、読者の共感性がヒロインに強く求められる側面あることも、その傾向に拍車をかける一因となっているのかもしれません。

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例えば「君に届け」が読み切り作品として初めて掲載された別冊マーガレット2005年9月号の主な掲載作を見てみると……『高校デビュー』『ラブ★コン』『紅色HERO』『キャットストリート』『ヤスコとケンジ』『flower』『ファイブ』『B.O.D.Y.』などなど。このうち黒髪ロングのヒロインは『ファイブ』のみで、髪の毛がベタ塗りであるという条件に緩めてみても『flower』しか引っかからないという状況です。

今の別マを彩る黒髪ロングのヒロインたち

 そんな状況に変化をもたらしたのが『君に届け』の爽子でした。もちろん出発点はイロモノであり、ヒロイン像としてのメインストリームになっているとは依然言い難い状況ではありますが(そしておそらくこの先も無いのではないか)、黒髪ロングなヒロインはここ数年で市民権を獲得し、確実にその数を増やしている印象があります。というわけで今回は、黒沼爽子以後の別冊マーガレットにおける黒髪ロングヒロインとして、現在連載中の黒ロンヒロイン作品をご紹介したいと思います。

 ちなみに黒髪ロングと言いつつ、爽子のようにガッツリ長い髪の持ち主は稀。ここでは肩よりも長ければロングと認定し、話を進めます。もちろんキャラクターだけでなく、ストーリーが面白いというのが大前提。このエントリーをきっかけに、普段少女漫画を読まない人にも興味を持ってもらえたら何より嬉しいです。



青山月子_『青山月子です!』

湯木のじん「青山月子です!」


 ヒロインの名前はタイトルにもある通り、青山月子さん。入学して早々に交通事故に遭い、長い間こん睡状態にあった後に意識を取り戻したと思ったら記憶喪失になっていたというイロモノ設定ヒロイン。周囲の話を聞くと、事故前の自分は「優しくて明るくてポジティブな人気者」だったらしく、月子は周囲が描く自分になろうと努力するのですが、どうにも空回りしてしまいクラスでは浮きがちに……。記憶が戻らず周囲ともうまくいかない中で、転校生の加賀美くんと出会い、彼女の日常に変化が訪れるのですが……というお話。

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生命力を感じさせないユルさから生まれる不思議な雰囲気。

 ジト目が印象的な彼女、そのイメージ通りダウナー系なテンションのヒロインです。丁寧語デフォで淡々としゃべるスタイルなんですけれども、理想像は「明るくポジティブ」であるので、低いテンションのままに発言や行動は明るいという不気味さが先行するという。そこが一つの笑いどころであるのですが、それが続くと痛いし辛い。そんな彼女を転校生である加賀美くんがヒーローとして引き上げてくれるという展開(に今後なっていくと思われる)。

 ヒーロー/ヒロインの関係性からも「君に届け」に通ずるものがあり、月子はその系譜を継いでいると勝手に思ってます(むしろヒーローの加賀美くんが風早くん的で素敵)。元々はクラスの人気者だったという設定はあるものの、物語は事故以降を描くため、どちらかというと「負」や「陰」を強調する記号としての側面の方が強そうですね。物憂げな表情も、黒髪の方が際立ちますし。現在2巻まで発売。



古屋卯多子_『Stand Up!』

山川あいじ「Stand Up!」


 くすぐったい高校生の恋模様を瑞々しく描き出す、ド直球の青春恋愛作品。ヒロインの卯多子は、恐らく今回ご紹介する5人のヒロインの中では最も髪の毛が短いです。シーンによってばらつきはあるものの、大体肩にかかるぐらいで、セミロングといった方が良いかもしれません。身長が172センチとかなりの長身の彼女は、その目立つ外見とは裏腹に引っ込み思案な性格で、すぐに顔が真っ赤になってしまうシャイガール。そんな彼女が、隣の席になった明るく元気な男の子・原田に出会うことで、誰かに恋することのキラキラした気持ちやモヤモヤした気持ちなど、様々な感情を一生懸命に経験していきます。

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よく風になびく髪。

 長身女性の黒髪ロングというと、芸能人ではシシドカフカさんや菜々緒さんなど、やや攻撃力高めな印象が先行する方が多い気がするのですが、卯多子は先述の通りそことは真逆にいるような子。セミロングぐらいの長さも、控えめな彼女によく似合っている感じがあります。けれども彼女は昔から髪が長かったわけでなく、中学時代はショートカットの陸上少女でした。そんな中、当時好きだった男の子に告白することもなく失恋、「髪を伸ばしても似合わない」と言っていた彼に逆らうように髪を伸ばしはじめたという背景が。5人の中で一番髪が短い一方で、その髪に明確に物語が与えられているという意味では、最も黒髪ロング性(謎のフレーズ)があるヒロインと言えるでしょう。しかしやっぱり、少女漫画における黒髪ロングはネガティブ発進が多いですね。現在3巻まで発売されています。



猪原さん_『町田くんの世界』

安藤ゆき「町田くんの世界」


 ついこの間1巻が発売されたばかりの新作。作者の安藤ゆき先生はこれまで読み切り集を3冊出されていますが、どれもめちゃくちゃ面白いので是非チェックしていただきたいところ(いきなり話題が逸れる)。本作はそんな安藤先生初の長編連載になります。物語の主人公はタイトルにもある通り、町田くん。メガネで背も高くなく、見た目の通り運動は苦手で、かといって勉強が得意なワケでもない……目につく長所がない町田くんですが、とにかく優しく誠実で人当たりが良く家族からも友達からも大人気の「天性の人たらし」。そんな彼と保健室でバッタリ出会い、以来なんだかよく話すことになるのが、猪原さんです(名前はまだ出て来てないと思います)。

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人を寄せ付けない性格。美人で、実は進学校出身で勉強も出来るという。

 猪原さんですが、授業はしょっちゅうサボっていて、クラスからも孤立しがち。不良というほどではないけれども、いわゆる「アウトロー系」の黒髪ロングヒロインに分類されるでしょうか。中学の時に友達にシカトをされて以来、人と距離を取るようになったというエピソードを持っており、その結果が今の態度につながっています。美人という評判も相まって、簡単には近寄らせない彼女の孤高さを象徴するものとして、黒髪ロングが機能しているように感じさせます。なんて最初こそつれない感じてツンとしている彼女も、誰にも壁を作らない人たらしな町田くんとの出会いによって、あっという間に態度は軟化。今後の展開は読めないものの、今時点で町田くんには好意を抱いているようで、ツンとした黒髪ロング美少女が恋する少女へと変貌していく様子は、ニヤニヤ指数かなり高め。作品的にも年末のムック本などで話題になってきそうで、今のうちに押さえておくことをオススメします。



小日向あゆみ(海根然子)_『宇宙を駆けるよだか』

川端志季「宇宙を駆けるよだか」


 え、なんで名前がカッコ書きされてんの?で、表紙のショートカットの子がヒロインなんじゃないの?と思われたかとおもいますが、いわゆる入れ替わり要素のあるお話だからというのが答え。別冊マーガレットでは珍しい、ファンタジー要素が落とし込まれた作品です。物語の主人公は、最近恋人が出来たばかりの、素直でカワイイ女の子・小日向あゆみ。彼女はある日、クラスメイトの海根然子の自殺を目撃し、そのまま気を失ってしまいます。そして目が覚めると、なぜかあゆみと然子の体は入替っていて……。


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目覚めたらこの姿に。笑顔でいると相応に愛嬌がありますが、事情が事情だけにあまり笑顔になることはなく、作中では厳しい表情が多い印象です。


 然子の容姿は醜く、入れ替わりをキッカケに、あゆみはこれまでの境遇とは全く異なるハードモードな人生を歩みはじめることになります。周りの態度は厳しく、さらに元に戻る術も分からないという絶望しかない状況。そんな中でも、持ち前な素直で前向きな姿勢で希望を見出していくという。

 ここでの黒髪ロングは語るべくもなく、圧倒的な負の記号として用いられています。長く重ためな髪は、醜い顔を隠すため。自分の容姿に対する徹底的な否定によって出来上がった、ある種禍々しささえ感じさせるような髪型です。然子自身かなり卑屈な性格なのですが、それはこの容姿だからもたらされたものなのか、それともこの性格だからこうなったのか。そんな然子の体にあゆみが入ると、だんだんと醸し出す雰囲気が変わっていくんですよね。周囲も彼女を受け入れるようになるんです。けれどもここで面白いのが、関係は良好になっていってもそれはあくまで性格ありきで、決してこの容姿そのものは受け入れられてなさそうなところ。「こんな容姿だけど」というのが見え隠れするという。

 容姿と性格という、なかなか扱いの難しいテーマを入れ替わりという要素を用いることによって描き出す、変わり種の一作。現在2巻まで発売されています。かなりジェットコースターな展開で、完結は意外と早いかも。




さて、以上が別冊マーガレットの黒髪ロングヒロインたちになるのですが、4作品だとキリが悪いので、姉妹誌であるマーガレットより1作品をご紹介しましょう。改めて見てみたのですが、マーガレットはあんまり黒髪ロングがいないですね・・・。

野々山ぼたん_『たいへんよくできました。』

佐藤ざくり「たいへんよくできました。」


 小学校時代、中学校時代と連続して男の子がらみでトラウマを植え付けられ、ずっと不登校となっていたぼたん。今度こそはと全寮制の高校に入学するのですが、長らく人と話していなかった彼女はスタートダッシュで出遅れ、なんとなく孤独気味に。そんな中、同じくクラスで孤独に生きる男子・甘藤くんと出会い、彼女の学校生活は段々と変化しはじめ…というお話。

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可愛らしくしたいという女の子らしい願望はもちろんあり、髪は場面によって様々セットされます。真っ直ぐおろしたストレートロングのシーンはやや少な目。


 ひきこもりというネガティブな設定はあるものの、それは彼女が美人であるがゆえに起こるトラブルに起因するもので、基本的にスペックは高め。ただ物語中で協調されるのは彼女視点ということもありますが、「ひきこもりのぼっち」というネガティブな面がほとんどで、美人であるという設定はあまりフィーチャーされません。物語を転がすうえでの使い勝手の問題かと思いますが、その暗い部分を描き出すのに、黒髪ロングが一役買っています。

 物語はバカ正直で、暴走から時にピンチに陥ったりもするヒロインを、甘藤くんというイケメンなヒーローが助けてくれるというザ・少女漫画というお話。マーガレットらしく、やや振り切れたキャラ設定も魅力です。現在3巻まで発売されています。



これから10年は?

 こうして振り返ってみると、それぞれに何か欠点というか、負の側面が付いて回ることに気が付きます。いや、もちろん少女漫画のヒロインなんてそんなもんと言われればそれまでなんですが、黒髪ロングでないキャラに比べて、よりネガティブ度が強く具体的。この5人もキーワードで表してみると「記憶喪失」「失恋した相手への反発」「シカトからの孤立」「ブス」「ぼっち」と錚々たる顔ぶれです。さて10年で倍になった別冊マーガレットにおける黒髪ロング勢力ですが、果たして向こう10年でどう変化していくのか。これ以上数が増えるとは考えにくいですが、もっと個性的なヒロインが登場してくるかもしれませんし、完全無欠な美しさを持ったポジティブアイコンとしての黒髪を持つヒロインが登場してくるかもしれません。まだ爽子が現役だったら驚きますが(笑)プチ黒髪ロングファンとして、別冊マーガレット、ひいては少女漫画における黒髪ロングのこれからを、楽しみに見守っていきたいと思います。