■あなたの声が、まなざしが、わたしのすべてを変えてゆく……。ままならぬ想いに翻弄される五つの物語。切ない恋を綴る、オムニバスストーリー。




 「本屋の森のあかり」の磯谷友紀先生のCocohanaでの掲載作を集めたオムニバス集です。色々な媒体で描かれていますが、集英社はこれが初めてになるでしょうか。作者さんのコメントでは「今までの自分の漫画の中では、わりとシンプルな気持ちで恋愛ものを描いたような気がします」とある通り、全体的に恋愛色を強く押し出したような作品が多く収録されている印象でした。


 本作には合計で7話が収録されていますが、大きく分けて4つの物語が収録されています。それぞれどんなお話かを紹介しましょう。まずは声ヲタの女性教師と、そんな彼女のツボにはまる声を持った男子生徒とのふれあいを描いた「始まりの朝に」「最後の夜に」。続いて、若い女性の住職さん・庵主さんと、そんな彼女に憧れを持つ男子高校生を描いた「うたうひと」「なおすひと」。人とのお喋りが極端に苦手な美術教師が、ひょんなことから購買のパートさんと話をするようになる「はなすひと」。そして象の生態研究をするため動物園にお世話になることになった女性研究員と、ドイツから来た象使いの青年の関係を描いた「アイラーヴァタの象つかい」の前編・後編。「はなすひと」を除いて、基本的に2話1組での構成となっています。





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正直なところどのお話もはずれがなくめちゃくちゃ満足したのですが、中でも際立って印象的だったのが「始まりの朝に」「最後の夜に」でしょうか。1話目に収録されていたり、ヒロインが表紙に描かれていたりと、一応メインに据えられていると思うのですが、これがめちゃくちゃ純度の高いラブストーリーで、切な死にしそうなほどでした。特に1話目「始まりの朝に」は、地味な女性教師と、ちょっとだけ大人びた生徒との無邪気な触れ合いのニヤニヤから、すぐに現実を直視させられるやるせなさが短い中に凝縮されており、グッと心掴まれました。



そんな状態で「最後の夜に」を読んだら、もう食い入るように読みこむしかないわけで。正直ここまで純度の高いラブストーリーが飛び出すとは思ってもいなかったので、読み終わっての感想は「すごい」とか「良かった」とかいうよりも「やられた・・・」という感覚が強かったです。動物や書店などワンテーマ据えつつの展開も磯谷先生らしく、勿論大好きなのですが、こと恋愛にウェイトを多く持ってくるとここまで破壊力があるのかという驚きがありました。


 Cocohanaという媒体からも分かる通り、ターゲット層は大人の女性なので、甘ったるいだけの物語はありません。甘さも苦さも交えた、大人な味付けの物語達となっています。そんな中、最後に収録されていた「アイラーヴァタの象つかい」は割とハッピーな雰囲気に包まれた作品でした。その源泉となっているのが、研究者のヒロイン・ミヨシ。これ以外のお話の主人公はどちらかというと思慮深いというか、ぐるぐると思考を重ねてしまうようなタイプが多く、それが作品の雰囲気に直結しているような感じがあるのですが、ミヨシは割と楽天的で前向き。時に重たい話になりつつも、明るさが先行するんですよね。




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明るいミヨシと、クールでツンデレなイケメン象つかい・ロッテンマイヤーくんとの掛け合いが見どころなお話です。




 「うたうひと」「なおすひと」は2話1組ですが、それぞれ視点が異なっており、恋物語としての大きなつながりはありません。若い女性住職をヒロインに据えるという、一風変わったお話ですが、描かれるのは普通のお話ですから大丈夫。ただ全体的に「ストイックやなぁ」と思わされる一面はあるかもしれません。唯一の1話完結作である「はなすひと」は、男性教師が主人公で、他人との会話もままならないという状況からのスタート。ゆえに描かれる恋も実にプラトニックで淡いものであります。弱々しさ、初々しさに溢れた臆病者の恋を静かに描きます。個人的に、これが結構好きでした。



【感想まとめ】
磯谷友紀先生の作品は好きで、これまでもほぼほぼ全て読んでいるのですが、ここまでグッと心掴まれた話があったかなぁというぐらいにツボにはまりました。オススメの1巻完結作でございます。



作品DATA
■著者:磯谷友紀
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:Cocohana
■既刊1巻



ためし読み