■夏美にとって世界の全てだった妹、春が死んだ―――。
妹の思い出を巡るため、夏美は『妹と二人で行った場所に私を連れていってほしい』という条件を付け、妹の婚約者だった冬吾との交際を承諾する。愛する妹を奪った男と二人、巡る季節がはじまり・・・・・・。




 こんな絵柄・表紙・タイトルですけれど、レーベルはゼロサムという違和感でまず目を引く本作。帯には「大型新人」の文字が踊り、なかなかにプッシュされている様子が伺えます。で、実際に手に取って読んでみたところ、これが凄かった。重めな雰囲気漂いつつ、普通とはちょっと異なるような雰囲気・展開でおくる作品ゆえに、年末のムック本などでも上位になりそうな感じがあります。実際、このマンガがすごい!Webのオンナ編6月版では、1位を獲得したようです(自分も票入れてるんですけど…)。


 物語の主人公は、最愛の妹・春をガンで亡くした姉・夏美。妹には婚約者・冬吾がいたのですが、双方の思惑があり、今はその彼と付き合い、「妹と二人で行った場所を巡る」という奇妙な行動を日ごと重ねています。夏美と春はごくごく普通の一般家庭に生まれ育ちましたが、父の血筋を辿ると今は没落した財閥一家に辿り着きます。一方冬吾は別の財閥の血を引く息子で、本物のお金持ち。春と夏美の家の血筋に目を付けた冬吾の親は、二人に縁談を持ちかけ、見た目も振る舞いもお嬢様らしかった妹の春と冬吾をくっつけようとしたというのが、関係のはじまりでした。春の死によってその関係は途切れるかと思いきや、今度は親ではなく冬吾から、夏美に交際を申し込むのでした。冬吾に全く気のなかった夏美でしたが、どんな思惑があってかその申し出を受け入れ、条件として「妹と二人で行った場所を巡る」ことを提示したという始まり。妹を通じて、少しばかり会話を交わしたことがある程度の二人でしたが、デートを重ねるに連れ、お互いの印象を変えていきます。妹への罪悪感や喪失感、ほのかに匂い立つ好意など、様々な感情に苛まれながら育まれる二人の関係を、独特の絵柄で描きだしてゆきます。




春の呪い0002
冬吾は生粋のお坊ちゃま。職業は銀行員で、資格も化物クラス。見るからに優良物件でございます。




 劇的な展開やアクションがあるわけではありません。死者を軸に、それぞれが抱える想いが行き交い絡み合う、ちょっと重苦しく、良い意味で理屈っぽい話。感情の吐露というよりも思考状態の羅列のようにも見えるモノローグが多様され、動きの無さや全体のページ数から想像するよりも何倍も読み応えがありました。主人公の夏美は、ガサツでさっぱりという印象のある女性で、とにかく人生に占める妹のウェイトが大きかったようです。ゆえに妹の死のダメージはとても大きく、深い喪失感に苛まれながら日々を生きています。オンのときは元気に見えつつも、ひとたびオフになれば落ちまくりという、情緒不安定な雰囲気あり。一方の冬吾は、婚約者が死んだというのにその感情が全く読みきれないほどに、その表情を崩すことがありません。そんな彼が唯一取り乱すのが、夏美を前にした時。つまるところ、春ではなく夏美に気があったわけで、物語は死者を交えた三角関係が形成されます。




春の呪い0001
死者への思いがあるがために、双方の思いを直視できない状況が続く。気づかないよう、触れないように、なお関係を続ける。




 辛いのは春が本当に冬吾のことを好いており、心から結婚を望んでいたということ。最愛の妹のその様子を目の当たりにしている夏美は、喪失感と罪悪感を。冬吾も背徳感を感じているわけで、終始その感情がまとわりつきながら二人の逢瀬は重ねられていきます。ここからも分かる通り、物語まとう雰囲気はめちゃくちゃ重いし、暗いです。けれども一たび読みだしたら、全然するっと読めてしまうし、ぐいぐい引き込まれるのだから不思議。決して明るい作品ではありませんが、ぜひ一読することをオススメします。2巻は秋に発売、完結予定だそうで、今から発売が待ち遠しいですね。



【感想まとめ】
なかなか強烈な印象を残した作品。次で完結のようで、どんな結末を迎えるのか楽しみです。



作品DATA
■著者:小西明日翔
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサム
■掲載誌:ゼロサム
■既刊1巻



ためし読み