■みんなに好かれるため「仮面」をかぶって生きてきた女子高生の千歳。ある日、痴漢から助けてもらった樹の瞳が忘れられず、後と尾けていった先は美術予備校だった!!予備校内を案内してもらう千歳だったけど、樹に嘘を見ぬかれてしまい……。




 紹介しそびれていた作品を振り返って紹介するという試み。本作「セキララにキス」は2巻まで発売されています。本記事では1巻の表紙でお届けしているのですが、個人的にはヒロインが涙を浮かべている2巻がとにかくお気に入りで、是非とも見てみてもらいたいところ。芥文絵先生はデザートのほか、新書館などでも描かれているのですが、繊細なタッチの素敵な絵柄ですよね。


 本作の舞台となるのは、美術予備校。主人公の千歳は、幼いころにいじめられた経験から、誰からも好かれるような外見・立ち居振る舞いをする「仮面」を被るようになった女子高生。とにかくその仮面は完璧で、自分の理想とする「嫌われない子」を演じきっています。そんな彼女がある日出会ったのが、美術予備校に通う男子・樹。冒頭にもある通り、痴漢から助けられたことをきっかけに出会い、尾行した先で美術予備校の見学をさせてもらうことに。そこでも当然仮面を被って「誰からも嫌われない素敵な子」を演じたところ、樹から完全に仮面をかぶっていることを見透かされてしまいます。それにブチ切れた千歳でしたが、痛いところを突かれた自覚はあり、家に帰って弱り目に。そんな中、彼女の忘れ物を届けた樹は、内心を吐き出しぶつける千歳に不意にキスを……。変わるきっかけのようなものを貰ったと感じた千歳は、彼が通う予備校に体験入学を申し込むのですが…というお話。




セキララにキス
Sっ気たっぷりの樹くん。仮面をかぶる千歳に対しては冷たく、一方セキララに自分を晒すと興味を持ってくれる。わかりやすくハッキリした性格です。




 

 学生でありながら、普段通う学校は殆ど描かれることはありません。描かれるのは専ら美術学校。これまでのあらましを見ると、入学は完全に男目当てもしくは男きっかけで、美術の志など無さそうに映るのですが、実家が多国籍料理の店をやっていて、アジア雑貨も扱っていることから、そこに自作の小物を置いていたりと、実は手先は器用で創作活動は結構好きという女の子だったりするのです。もちろん樹の存在は常に意識していますが、一度課題に取り組み始めるとそれに夢中になり、悩んでいたことも忘れられるという。樹はそんな千歳を評価しており、それをさらけ出せと言うのですが、長年染み付いた行動様式はすぐに変えることは出来ず、千歳は苦しみつつも少しずつ振る舞いを変えてゆくのでした。



 

 相手役となる樹はとにかく真正面からぶつかっていかないと振り向いてくれないような頑固で感の鋭い男の子。現役で美大に合格することを目標としており、誰よりも真剣に美術に取り組んでいます。芸術を見る目と、そのイケメンっぷりから女性関係で危ない目に遭ってきた経験も相まって、女性を見る目は極めて的確で厳しいものに。千歳の仮面も容易に見破る一方で、何かに真剣に取り組んだり、自分の心を素直にさらけ出したりした時は、びっくりするほど優しかったりします。このツンとデレの使い分けが絶妙すぎて素晴らしい。なお二人は1話目でキスをしていますが、付き合うとかそういう関係にはなっておらず、樹くんの真意も不明。千歳は完全に彼にハマるわけですが、この通り樹は難攻不落の鉄壁のお城。千歳は頑張って近づこうとするのですが、なかなか簡単には行きません。

 

 美術予備校と一口に言っても、ただただ絵を書くだけではなく、創作活動やグループ活動などもあり、その内容は幅広いものとなっています(実際の予備校がどうなのかは知らないですが)。イベントには事欠きませんし、また美術学校に通うだけあってその面々も個性的。そのため、仮面を被ってどうにかなるような高校生活とは異なり、千歳には刺激的で魅力的に写ったのでしょう。完全にこちら中心の生活へと変わっていきます。

 

 「セキララにキス」というタイトルですが、実はキスシーンは2巻まででほぼ出てくることはありません。むしろ出てくるのは、上手く行かずに思い悩み、泣いてしまう千歳の姿。とにかく毎回泣いているような印象すら受けるのですが、この泣き顔がまた可愛いんですよ。仮面を被っていたなら、そもそも泣くことすらしていないわけで。自分の気持ちに素直になってぶつかったからこその「涙」と考えると、いかに彼女が変わろうと努力して、自分の気持ちをさらけ出しているかが伺えます。恋愛におけるトキメキを中心とした感動もさることながら、本作では何か真剣になれるものに対して、真っ向からぶつかり取り組むという”熱”と、そんな中で自分の心をさらけ出す”覚悟”を通した感動も味わう事が出来るのが良いところ。そんな千歳に対して、鉄壁の樹の心も徐々に変化を見せてゆくのですが、当たり前ですがそうそう簡単に陥落はしません。恋愛での感動は、これからゆっくりと増えていくことでしょう。




セキララにキス00021
2巻ではだいぶ頻度は減ったものの、相変わらず泣きます。1巻なんか毎話泣いているイメージ。その涙も色々な涙があります。




 1つだけ、個人的に気になったのは、作中では一生懸命頑張って仮面を被る千歳が完全否定されているところ。もちろんそれは千歳自身も同意しているわけですけれども、これって「みんなに嫌われたくない」という目標に向かって、ただひたすら努力をして手に入れた結果であるわけで、その努力やプロセスは「頑張ったね」と承認されてもいいんじゃないかと思うんですよね。その後生きづらいというのはあるのかもしれませんが、それって凄いことだし、そこに向かって頑張れる千歳は動機は不純ではあったかもしれないけれど、やっぱり凄いよと。3巻は6月発売って、今月ですか!楽しみですね。


【感想まとめ】
良作揃いのデザートにあって、一番青春度が高いのは本作かもしれません。好きなこと、好きな人に向き合って全力でぶつかるヒロイン・千歳を見ていると、元気がもらえますね。おすすめ作品です。



作品DATA
■著者:芥文絵
■出版社:講談社
■レーベル:KC デザート
■掲載誌:デザート
■既刊2巻



ためし読み