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難聴の大学生を変えた一人の男子との出会い -文乃ゆき「ひだまりが聴こえる」


■難聴のせいで何かと誤解を受け、周囲とうまく馴染めない大学生の航平は、いつしか人と距離を置くようになっていた。そんな時に出会った同級生の太一。バカみたいに明るい性格で、思ったことを何でも口にする彼から「聞こえないのはお前のせいじゃないだろ!」と言われ、航平はその言葉に心の底から救われて……。友達以上、恋人未満。太一との出会いが航平を変えていく。




 ものすごく久々にBL作品のご紹介です。相変わらずハードなBLは苦手なのですが、雰囲気先行のソフトなBLはちょこちょこと手を出していたりするのです。こちらの情報は殆ど仕入れることが無いので、店頭のPOPなんかを頼りに1年遅れに手を取ったりとかもザラ。本作もそんな中の1冊で、発売されたのは2年前の2014年。そんな作品を今回ご紹介しようと思ったのは、続編がこの5月に発売されたと共に、なんと実写映画化が決まったという情報が出てきたため。割りとミーハーなので、こういうオマケ的なネタにはついつい食いついてしまうという。

 

 物語の舞台は、とある大学。物語は、実に素直で元気いっぱいの太一の視点を中心に描かれていきます。喧嘩でバイトをクビになり、お金が無くお昼ごはんも食べられずに空腹にのたうち回っていた太一は、建物の屋根の上で一人佇みお弁当を食べている航平と出会います。あまりにお弁当を羨ましそうに見つめる太一を見て、航平がそのお弁当を恵んであげたことをきっかけに、二人の関係はスタート。航平が授業の内容をノートに取るノートテイカーを募集していることを知った太一は、対価としてお弁当を恵んでもらうという条件で、その役を買って出るのでした。授業中に寝るし、字は汚いし、要点も押さえていないし……ノートテイカーとしては目も当てられない太一でしたが、航平に聞こえないように陰口を言っていた先輩を殴り飛ばした太一の「聴こえないからって何言ってもいい訳ねーだろ。聴こえないのはお前のせいじゃないだろ!」という真っ直ぐな言葉に感動した航平は、以降も太一にノートテイクを頼むようになるのでした……というあらまし。



ひだまりが聴こえる0001
感謝や好意は素直に伝える。思ったこともハッキリと伝える。裏表なんて一切ない、素直な性格の太一。




 ノートテイクは大学によるのかもしれませんが、普通はボランティア。本作でもボランティアとしての募集として描かれているのですが、自ら求めたわけでもなく、お弁当という対価をしれっと手に入れてしまうというエピソードに、太一の人懐っこさが凝縮されているような気がします。とにかく素直で明るく、一緒にいると楽しく元気になれるような存在で、友達も多いです。一方それが災いして、不用意な事をついつい口走ってしまったり、口よりも手が先に出てしまうこともしばしばでした。大きく通る声そのものに加え、飾り気なく心から真っ直ぐに放たれる太一の言葉たちは、難聴で耳も心も塞いでしまいがちな航平にもきちんと届くんですね。


 一方の航平は、難聴と言えど全く聴こえないわけではなく、大きな音であれば聞き取れるし、口の動きを読んで何を言っているかも判断できるので、基本的な日常会話は出来るレベル。会話も手話ではなく、普通に行います。とはいえ完全に聞き取れるわけではないので、聴き逃しや聞き間違いも当然あります。正統派のイケメンなので女の子も頻繁に寄ってくるのですが、難聴も相まって思わぬ人間関係のトラブルに巻き込まれることもしばしばで、それが余計に他人と取らせる要因ともなっていました。どうにも孤立しがちだった大学生活の中で、人とつながる喜びを教えてくれた太一の存在を、彼の中で大きくしていくのは、ある種当たり前と言えるかもしれません。

 

 レーベルはフランス書院ということで、勝手に「エロいの多いんじゃないだろうか…」とか勝手な先入観を抱いていたりしたのですが、驚くほどソフト。これまで読んだBLの中でもかなり淡い描き方に分類されると思います。一応最終的に恋愛感情が生まれるのですが、それも友情の延長線上に芽生えた”縋り”とも思える感情という印象でさほど違和感は無いし、普段BLを読まないような方も拒否感を示すことはあまりないんじゃないでしょうか。どういった層を取り込む狙いで実写映画化するのかはわからないのですが、難聴というデリケートな題材を扱いつつ、恋愛感情以外も十分に落とし込みながら青年2人の関係を描く本作は、変にBLとカテゴライズせずとも良いような気もするんですよね。


ひだまりが聴こえる0002
難聴というテーマについてもしっかりと真正面から描きます。右は髪を切った航平。左は続編に登場する、難聴の女の子です。


 5月に発売された続編は、かなりボリューミーに”その後”を描きます。なんとなく続編って蛇足感が否めなかったりするのですが、本作の場合は1巻が終わった時点で二人の関係が確定していなかったこともあり、普通に物語の続きとして読める内容になっています。むしろキャリアを積んでこなれたからなのか、物語が積み重なり深みが出たからなのか、続編の方が感動的だったり。なので手に取る場合は、是非とも続編もセットで購入されることをお薦めします。ちなみに続編もソフトなのは相変わらずで、本編中はキスすら出てきません。


 振り返るとあんまりその魅力を語れていないような気がするのですが、いやこれがほんとにいい話なんですよ。単純な好き・嫌いの話ではなく、難聴という題材があるがゆえに、もっと大きな枠で「相手を支えたい」とか「相手のためになりたい」という、より人間的で根源的な感情が働いてる感じ。「好き」というか、むしろ「一番大切」とかそういう言葉の方がしっくり来るような関係と言いますか。ともあれその原動力となっているのは、何より人間的な太一のキャラクター。ここまで活き活きと動きまわるキャラクターなかなかいないと思います。こんな奴が友達にいたら、きっと楽しいんでしょうね。


【感想まとめ】
映画化も納得の、普通に良い話でした。かなりソフトなので、あまりBL作品に馴染みが無い方にも手が出しやすいんじゃないかと勝手に思ってます。



作品DATA
■著者:文乃ゆき
■出版社:プランタン出版
■レーベル:Canna Comics
■掲載誌:Canna
■既刊2巻

1 Comment

  1. 以前こちらで紹介された、さらば、佳き日の作者の方の別名義作品ですね。
    さらば~をこちらで知って読んで、作者に興味が出たので、こちらも1冊目だけは読んでいました。続編は手を出していなかったんですが、読んでみようと思います。

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