■瘴気漂う禁忌の地……そこにはかつて人を喰らい支配した異形の眷属と、恐怖をもって彼らを統べる王がいた。魔族の王に、99番目の生け贄として捧げられた少女・サリフィ。生け贄となる事を定められて生きてきた少女は王を恐れず、供犠の夜を待つ。名は持たぬ王の真実の姿を知った時、伝説が始まる……。




 友藤結先生の花とゆめ連載作。表紙を見れば分かる通り、美女と野獣的な異種間恋愛を描いたファンタジー作品でございます。物語の舞台となるのは、人間を寄せつけない瘴気漂う魔界。その魔界を統べる、唯一絶対の王様の元には、定期的に人間界から生け贄として若い女が送られてきます。物語のヒロインであるサリフィも、生け贄として魔界に送られてきました。普通であればうろたえ怯え、泣き叫んでもおかしくないのに、サリフィは王を目の前にしても全く動じないどころか、魔族の王に興味を持ち、積極的に話しかけながら王との距離を縮めようとするのでした。彼女の悲しい出自を知り、さらに自分を信じ懐いてくれる彼女に心を許した王は、一転サリフィを妃として迎え入れることに決めます。元々食べられて死ぬつもりであったサリフィもそれに抗うこともなく、二人は波乱に満ちた、新たなる生活を始めるのでした……。

 

 異種間の恋愛ではある種お約束とも言える、相手は王様・王子様というパターン。王様は大抵、世間知らずの生意気キャラか、心にぽっかり穴の空きつつも表向き非常に人間の出来たハイスペックキャラに大別されるイメージがあるのですが、本作は完全に後者。魔族の王というぐらいですから、その見た目や持ちたる力は王に相応しいものです。しかし決してそれにおごりひけらかすことなく、普段の佇まいは悠然としていて、静か。そんな王が抱える弱点は、実はその身体に人間の血が流れているということ。普段は魔族の姿をしていますが、瘴気が晴れて月の出る夜ときには、人間の姿になるのです。お約束的に、その姿はイケメンという。ただし人間の姿になることは、作中では殆どありません。


贄姫と獣の王
魔族の王に花を贈るサリフィのこの無邪気さ。このサイズ感も重要で、簡単に王はサリフィを抱っこできちゃうわけですよ。もふもふに包まれつつ眠ったり、ひょいと抱っこされたりするシーンが可愛らしくて好き。


 一方のサリフィは貰われてきた子供で、しかもそれは「実の子供を守るために、代わりに生け贄として」というなかなか哀しい背景を持っている少女です。そのため人間界には居場所は無く、どんな形であれ自分を受け入れてくれた王に気持ちを寄せたのは、ある意味で自然なことだったのかもしれません。このような出自の持ち主ですが、その性格は実に素直で、色々なことに興味津々。王宮も街中も、実に自由に歩き回ります。この物怖じをしない堂々とした性格と無邪気さが一番の魅力と言えるでしょう。どちらかというと行動的でない王と、とにかく行動的なサリフィの組み合わせが生む様々な出来事が、物語を転がす原動力となっていきます。

 

 様々な設定やキャラクターが登場してきますが、物語としては、「お互いに完璧ではなく、何か大きな心の穴のようなものを抱える2人が、寄り添い手を取り合いながら、成長し愛を育むお話」と綺麗に定義できるぐらいに、二人の関係にフォーカスしたラブロマンスとなっています。とにかく恋愛ものとしての純度が高い。特段珍しい設定・世界観ではなく、物語の展開だって類似した作品と比べて特段劇的というわけでもありません。けれどもどうにも2人が創りだす物語に惹きこまれてしまうのは、それだけ2人が魅力的なキャラクターだからなんだと思います。もう1話目で「これはもう絶対揺るがない、完璧な関係だ」と確信できるぐらいにお似合いな二人の関係を、微笑ましく見守りたいと思います。2巻も楽しみですね。



【感想まとめ】
白泉社らしいファンタジー作品。表紙とタイトルから受ける印象そのままの設定・物語ですが、これが意外と良かった。おすすめです。



作品DATA
■著者:友藤結
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:花とゆめ
■既刊1巻



ためし読み