■学生時代から一緒だった最愛の恋人・雪子と別れた道信。彼の世界は一気に意味を成さなくなってしまった。思い出から逃れたくて感情のままに引っ越し、職場からも距離を置く。逃げの姿勢に入った道信に手を差し伸べたのは近所に住む幼稚園児の歩だった。道信は歩と”ごはん友達”になることで世界の意味を一つ一つ学びなおしていく。食べる、泣く、頑張る、笑う……ぜんぶぜんぶ輝いている。食を通して育まれる歳の差の友情を爽やかに描いたデビューコミックス。





 芝生かや先生のデビューコミックスです。BeComicsでの刊行になりますが、掲載媒体は「食男」という、食べる男子を見て楽しむというなかなかコアなテーマの漫画誌となっています。その表紙を見てもらえればわかるのですが、絵柄はBLテイストでかなりフェチズムを押し出した内容になっています。もちろん様々な作品が掲載されているのですが、おしなべてそういう系統の作品が多いのかな……なんて先入観で本作を読んでみたらびっくり。Twitterでもつぶやいたのですが、ちょっとびっくりするぐらい「優しい世界」で、めちゃくちゃ癒やされました。思わず掘り出し物に出会った的な嬉しさがありました。


 物語の主人公はデザイン会社で働く道信。冒頭のあらまし紹介にもある通り、最愛の恋人との別れから、ちゃんと働き生きる気力を失った彼は、流れるように職場から遠く離れた田舎町の一軒家に住みはじめます。土地勘もなくウロウロとしていたら、何やら丘の上から食欲をそそる良い香りが…。辿り着いた先にあったのは、眺めが素敵な一軒家と、ひとりの小さな男の子。何やら興味津々に道信に話しかけて来る彼・歩は、その日以来、街中で道信を見かけるたびに追いかけてくるように。誰かと関わることに乗り気でない道信でしたが、歩の期待の眼差しと、オネエな老執事・小塚の押しの強さに逆らうことができず、歩と友達になり度々一緒に過ごすように。彼女との生活で身につけた料理の腕前を活かして、出かけるたびに美味しいお弁当を持って、歩の元へと向かいます。


%e3%82%8f%e3%81%8b%e3%81%b0%e3%81%ae%e3%83%86%e3%83%bc%e3%83%96%e3%83%ab20160910_0001
歩との優しい日常。ただただごはんを食べるだけでなく、こんなやり取りも嬉しかったりするんです。


 傷心の独身男性と、寂しさを抱える幼稚園児とのつながりを、料理で彩るハートフルストーリーとでも言いましょうか。道信はなんでも美味しそうに食べる歩の姿に、元カノの面影を見出し、一方の歩は、両親が海外にいるという寂しさを、道信との関係によって埋めるというような関係です。世界を股にかける両親だけあり、お家はお金持ち。ゆえに執事の小塚さんがいたりするのです。ただこの小塚さん、普通の執事とはちょっと違って、言動がオネエ。執事というよりはおばちゃんに近い感じがあり、おせっかい焼きであると共に、その押しの強さで度々道信をイベントに巻き込んでいきます。普通に生活していたら、なかなか幼稚園児とは接点を持つことはできませんよね。そんな中、小塚さんの後押しにより、幼稚園の参観日に道信を向かわせたり、道信の家に歩と共に押しかけたりと、自ら動く意思に乏しい道信を動かす動かす。良い働きをします。


 「ごはんを食べること」というか、「誰かのためにごはんを作る」「誰かと一緒にごはんを食べる」ことによって、ぽっかり空いた心の穴を埋めて癒していくような作品で、そこそこ凝ったおしゃれな料理も登場しますが、細かくレシピ解説するような感じではありません。あくまごはんを食べて、どう感じるかというところに主眼が置かれています。小さな子どもを絡めつつの癒し系料理漫画ということで、例えば「甘々と稲妻」なんかがお好きな人は、本作も気にいるんじゃないかと思いました。


%e3%82%8f%e3%81%8b%e3%81%b0%e3%81%ae%e3%83%86%e3%83%bc%e3%83%96%e3%83%ab20160910
 幼稚園の参観日に行くことで、歩以外の子供とも仲良しになるんですが、これに歩が嫉妬したりするシーンがあって、それがまた良いんですよ。人間関係が広がっていくことは勿論良いことなのですが、道信が拠り所になっている歩からしたら、それは危機であって、無自覚に嫉妬しちゃうっていう。難しいですよねぇ。ちなみに嫉妬を覚える相手の杏ちゃんはグイグイくる系のおませな女の子なんですが、お母さん共々可愛いです。


 物語の軸足は歩との関係なのですが、幼稚園児とご飯食べてるだけで、恋人との別れの傷が完全に癒えるなんてことはもちろんありません。恋愛で出来た傷は、新たな恋をして前に進むか、その相手ときっちり向き合って消化するしかありません。本作の後半では元恋人が登場し、一転恋愛エピソードを活かした物語が展開されます。そこにももちろん料理やごはんが絡んでくるのですが、こちらも歩との物語と同じくらいに優しく素敵な世界なんですよ。美味しそうにごはんを食べる女性ってだけでもう好感度MAXなワケなんですが、それ以上に彼女がいい人であること、別れてもお互いまだまだ好きなんだろうなぁということがひしひしと伝わってきて、心温まりつつも切ないのです。


 巻数はついていませんが、ちょっと調べた感じではまだ連載続いているんですかね?続きが読めるのであればぜひ読みたいですし、変わらぬ雰囲気の中、確実に人間関係は変化を見せていきそうで、続きを読む楽しみが尽きないタイプの物語であるように思います。もし2巻が出てくれたら嬉しいなぁ。癒やされたいあなたにオススメの1作です。



【感想まとめ】
絵柄もキャラクターもお話も全てが好み。「あー、いい作品見つけた」という感覚で言えば、今年1番じゃないだろうか。



作品DATA
■著者:芝生かや
■出版社:ふゅーじょんぷろだくと
■レーベル:ComicBe
■掲載誌:食男
■既刊1巻



ためし読み