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ノスタルジー溢れる珠玉の短編集 -須藤佑実「ミッドナイトブルー」


■「卒業しても2年ごとに集まって4人で火星観測をしよう」
そう約束した2日後に、彼女は交通事故で死んでしまった。天文部の同級生だった僕たち3人は彼女との約束を守り、2年に1度集まっている。そこには、ぼくにしか見えていない”彼女”も来ているけれど……。

戻れない青春の日々を大事に慈しむ表題作他、ノスタルジー溢れる短編全7編を収録。新世代の叙情派ストーリーテラーが贈る傑作短編集。





 しばらく冬眠していましたが、ぼちぼち復活していきます。と言っても、たぶん1月からはまた冬眠すること必至なのですが……。ただ書く時間が取れていなかっただけで、読んではいたのです。色々と紹介したい作品は溜まっているのですが、まずはこちらの短編集から……。ブルーを基調とした表紙に描かれる、黒髪少女の横顔ということで妙に惹かれたのですが、その中身もグッと心を掴んでくるものでした。ここ最近読んだ短編集の中では、群を抜いて好き。作者の須藤先生ですが、過去にビッグコミックスから単行本「流寓の姉弟」を出されているみたいですね。


 ページをめくってまず驚くのは、紙の色がやや黄色がかっており、インクの色が濃い青になっていること。これはタイトルにもなっている「ミッドナイトブルー」にかけたものなのでしょうが、表題作に限らず、これがなかなか作風とマッチしていて、良い味わいを生んでいるのですよ。お値段据え置きでこういった工夫というのは、買う側としても嬉しいですよね。そもそもこっちのほうがコストかからなかったりするのかもしれませんが。では収録されている物語をざっくりとご紹介しましょう。


 真面目な高校教師が朝目覚めると、隣に見知らぬ美女がいて……というところからはじまる、秘密を抱えた二人の「箱の中の想い出」。メガネのアナウンサーに夢中な女子高生の日々を描いた「夢にも見たい」。入院中の祖母に会いに帰った父の田舎で、不思議な女性に出会い惹かれていゆく「今夜会う人」。植物バカの兄が失踪して8年、兄を忘れない彼女に横恋慕する弟を描いた「花が咲く日」。先輩への恋心をはぐらかされた大学時代。卒業して5年が経ち、大雪の日に偶然再会して…という「白い糸」。3年間会っていない夫婦は、夫がカメラ越しに妻を監視し続けるという不気味な関係を描く「ある夫婦の記録」。そして最後に、冒頭にてあらまし紹介をした「ミッドナイトブルー」。



 計7話が収録されていますが、ファンタジー要素を含んだものもあり、現実路線のものもありと、その引き出しは割りと広い印象があります。個人的にお気に入りだったのは、「箱の中の想い出」ですね。真面目な高校教師が朝目覚めると、隣には見知らぬ美女が……。なんだかとっても自分のこと知っているような雰囲気を出す彼女ですが、どうにも覚えが無い。けれども段々と彼女の正体がわかってきて…というお話。


 これといった大きな出来事が起きることもない、とある男女の出会いを描いたお話なのですが、これはオチがとにかく気が利いてて面白かった。正体がわかったところでめでたしめでたしでもある程度すっきり感はあるのですが、もうひと捻りしてちょっとした笑いと寂しさがミックスされて、なんとも言えない感慨がありました。短いページながら、序盤にきちんとオチに対する伏線が張ってあったりするのも個人的にポイントが高いところです。


 また「白い糸」も「花が咲く日」も落ち着いた雰囲気の中で青春ならではの勢いが感じられる内容で、読み終わった時に不思議なほっこり感がありました。こうして振り返ってみると、7話中5話が男性主人公のお話なんですね。個人的にも男性主人公のお話の方が好みだった感があるのですが、作者さんは名前から察するに女性のようで、ちょっと興味深いところ。作風という部分もありますが、掲載媒体がそもそも女性向けの中で、男性主人公の話を多く描くというのがまず珍しい気がします。



「花が咲く日」より。片想いな少年の、上手くいかない恋心が滑稽ながらもエネルギッシュに伝わってきて、微笑ましくも切ない内容になっています。十代の失恋って、尊くないですか?なんかずっと残るイメージがあって。


 ドラマチックで幸せな結末というものはなくとも、どれも気の利いたオチや、小さな幸せみたいなものを感じることの出来るお話となっており、そのあたりも非常に好みでした。全部が上手くいっても面白みがないし、かといって救いがなければ読みたくもない……そんな中で、ちょうど良い塩梅の結末を幾つも見ることができるとでも言いますか。切なさや寂しさを感じつつも、幸せや前向きさを得られる内容で、この季節、静かにじっくりと味わって読んでもらいたい一作です。オススメ。



【感想まとめ】
振り返るとあんまり各話に踏み込んだ説明を出来ていないのですが、いかんせん短編集なので変に踏み込むとオチを踏むことになるので難しい。ともあれこれは、そんな説明は省いてでも読んでいただきたい短編集なので、興味を持った方は是非手にとってみてください。



作品DATA
■著者:須藤佑実
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻



ためし読み

1 Comment

  1. 再開おめでとうございます。楽しみにしていましたので、本当にうれしいです!

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