■どんな時でも「いただきます」
書くことが思いつかない。典型的なスランプに陥った新人作家・熊川。小説家としては新人賞を受賞という華々しいスタートを切った…はずだったのに。熊川は東京での一人暮らしを畳んで、田舎へと引っ越す。漠然とした不安を抱える毎日。それでも今日も腹は減る。一歩を踏み出すなら、まずは食事からだ。立ち止まってしまっても、食べられさえすればまた動き出せる……。読んだ人の背中をそっと押すハズニッコのデビューコミックス。





 「色男」から続々と単行本が出てきますが、見ている印象からすると半分ぐらいは食事を通じたハートウォーミングな内容のものが多く、その雑誌のタイトルと表紙から受ける印象とは異なり、癒し成分多め。どうしても作風は似たり寄ったりになってしまいますが、個人的に結構注目しております。さて、本作「ごち猫ごはん」も主人公は若い男子で一人暮らしです。表紙やタイトルから分かる通り、ネコと一緒に暮らしていますが、物語の中でネコが中心的な存在かというと、そうではなかったり。


 主人公の熊川の職業は小説家。新人賞を受賞するも、その後が書けず、今はエッセイをちょこちょこと描いて小銭を稼ぐ日々。田舎の実家に戻り、東京から連れてきたネコ2匹と共に暮らしています。サラリーマン時代の蓄えもたくさんあるわけでは無いし、印税収入だって大したことありません。田舎なので外食をすることもできませんし、食材の買い出しはバスで行かなければならないので、食事はもっぱらまとめて食材を買い出しに行って自炊をするというスタイル。そんな生活が不満でもなく、けれどもいつまでたっても出てこないアイデアに、静かに焦りを感じるというような状況です。そんな彼にとって日々の楽しみは、食事。買い出しで手に入れた食材は勿論のこと、自分のことを何故か慕ってくれている近所の女子高生・佐藤千影ちゃんからの野菜のおすそ分けがありがたい。旬のやまといもやキャベツを使って、凝っていない、オーソドックスな、けれどもとっても美味しい料理を作ります。



うどんを手打ちで。採れた大葉を添えると、より美味しそうに。


 田舎を舞台に、うだうだのほほんとした主人公を中心に、2匹のネコと、そんな彼が気になって仕方ないヒロイン・千影ちゃんとで送るほのぼのスローライフ。……と思いきや、物語中盤では主人公の東京時代の物語が描かれ、一転なかなかドライでシリアスな物語が描かれます。癒やしもありつつ、シリアスもありと、1冊で2面を楽しめるような構成となっています。田舎暮らしというよりも、都会でも田舎でも、誰かとつながることの大切さみたいなものを若者の日々を通じて描き出した物語と言ったほうがしっくりくるかもしれません。


 本作の魅力はなんといってもヒロインの千影ちゃんでしょう。まあとにかく可愛い。レーベル的にホモ寄りなので、この手のヒロインが登場してくるのは割りと珍しい印象があります。田舎でまっすぐに育ったというような、快活で、けれども恋に対してはオクテな女の子でございます。1巻だけなので恋が発展することは無いのですが、自分の想いに無自覚でドキドキしている様子や、逆に自覚してからの赤面する様子なんかももうかわいくてかわいくて。



こういう子の魅力を引き出すには、うだうだと現状維持するような優柔不断の男が最適なワケですが、主人公の熊川はまさにうってつけ。はっきりしない彼を前に、千影ちゃんは色々頑張っちゃいます。

 料理漫画ではなくあくまでご飯漫画なので、突飛な料理が出てきたり、レシピが紹介されたりはしません。メニューもお好み焼きとか、うどんとか、ピクニック先で食べるお弁当とか、親しみやすいものが中心。その素朴さが良いですよね。読み終わったら心ほっこり、ちょっとお腹が減っているような、そんな作品でした。



【感想まとめ】
面白かったです。一緒にご飯を食べて癒される系の漫画、最近増えてきていますが、そういったニーズにぴったりとはまるような作品です。



作品DATA
■著者:ハズニッコ
■出版社:ふゅーじょんぷろだくと
■レーベル:Comic Be
■掲載誌:食男
■全1巻



ためし読み