■幸田まり子80歳、冒険が始まる。
80歳になる幸田まり子はベテランの作家。夫に先立たれ、息子夫婦、孫家族と同居中。悠々自適の老後を送るはずが、家が手狭で家族の諍いが絶えない。ある日、まり子は家族が自分に内緒で家の建て替え計画していることを知る。そして、ある「事件」が起きて自分が長く生きすぎ、家族の邪魔をしていると痛感。リュックひとつで家出を決意するのだが……。





 「あとかたの街」のおざわゆき先生の新連載です。なかなか見ない、80歳のヒロインです。正直どんな作品になるのやら、不安もありつつページをめくってみたのですが、意外と面白くて驚きました。正直設定勝ちな匂いがほのかにしていたのですが、まんまとしてやられた感がすごい(笑)


主人公・まり子は未だ現役のベテラン作家。自宅で執筆を続けていますが、その自宅が最近とても騒がしい。小さな家に、4世代が住んでおり、家中がドタバタしています。加えて、息子夫婦と孫夫婦の仲があまり良くなく、気も落ち着きません。それでも自身の終の棲家だと認識し、暮らしていました。そんなある日、まり子に内緒で建て替えの計画をしていることを知ると共に、かつての作家仲間の死をきっかけに、自分が長く生き過ぎてしまったと自覚、80歳にして一人家を出る決意をするのでした。しかし一人暮らしをするという80歳に安々と家を貸してくれるほど、世の中は甘くありません。老人の孤独死が急増しているなか、不動産屋は物件の紹介を渋るのでした。しかし何日もホテル暮らしを出来るほど、お金に余裕は無いし、ホテルだってここ最近はどこも満室…。そんな中まり子は、ネットカフェというものに出会い、そこでひとときを過ごすのですが……という物語。



80歳にしてはじめてのネットカフェ。ドキドキしながら足を踏み入れましたが、生きていくに最低限必要な設備・サービスが揃っていることに感心します。


 ネットカフェで暮らすという話ではないのですが、1巻ではネットカフェでの生活がメインとなっています。初めてネットカフェを利用し、食事をしてシャワーを浴びて、さらには漫画を読んで資料として、執筆の材料にする……その姿は実にたくましく、バイタリティに溢れています。元々バイタリティ溢れる人というわけではなく、そこまで追い詰められたからこそ、いっそ開き直って好きに……という強さ。その後もネットカフェを拠点にしつつ、捨て猫を拾ってしまうなどやりたい放題。普通であれば「ダメ」の一言で諦めるのですが、これが一度決めたらそれをなんとしてもやり遂げてやるという気概を持って立ち向かっていってしまいます。この後も車に轢かれてみたり、まさかの恋愛の匂いまでする出来事が起きたりと、次々と起こる出来事から目が離せません。


 80歳のヒロインで、当たり前ですが同世代の共感を狙った作品ではありません。正直どこに訴求していくんだろうと思ったのですが、大人しい見た目とは裏腹に、なんでも飛び込んで必死に生きてゆくまり子の姿が、危なっかしくて目が離せないと同時に、困難をたくましく乗り越えていく姿に感動してしまうという。最初からこれを狙っていたの?いずれにせよ、私はまんまとやられたわけで。



きっかけがきっかけだけに、前向きな独り立ちではありません。孤独感に苛まれる中、出会ったのは一匹の捨て猫。自分自身に境遇を重ねてしまい、見捨てておけなくなったのです。


 一度は生活を諦めつつも、その後たくましく生きてしまうというところ、ジャンルも物語の内容も全然別物なのですが、本宮ひろ志の「まだ、生きてる…」に通ずるものをなんとなく感じてしまいました。あちらは山奥でサバイバルでしたが、こちらは東京砂漠でのシティサバイバル。生きづらくも、工夫とやる気一つで生きていくことの出来る世界でもあります。


 本作の落とし所は正直なところ想像がつかないのですが、後悔なしに本人が往生…みたいなオチは嫌だなぁ。なんとなく本当の終の棲家を見つけるか、もしくは場所にこだわらずに自分の心の中で答えを見出すとか、そんなところなんですかね。ともあれ「老人に何か挑戦させる」という広いテーマだと見れば、いくらでもアイデアが出てきそうな本作。まり子がこれからどんな道に進んでゆくのか、とても気になります。



【感想まとめ】
オススメって誰に向けておすすめするんだって感じですが、面白かったので。こんな境遇になりたいとは思いませんが、こうした気概を持って生き抜いて行ける人間になりたいなと思いました。



作品DATA
■著者:おざわゆき
■出版社:講談社
■レーベル:KC BELOVE
■掲載誌:BELOVE
■既刊1巻



ためし読み