■海辺の小さな町で孤独にチェロを弾いている少年・鉄雄。ある日、沖で海難事故が発生。海に投げ出された少年・郁未は、鉄雄が奏でるチェロの音に導かれるように、奇跡的に浜に流れ着いた……。





「式の前日」や「さよならソルシエ」の穂積先生の新連載です。「さよならソルシエ」は2巻で、「うせもの宿」は3巻で完結しており、今度は目指せ4巻というところでしょうか。今回は、海辺の町で数奇な運命によって巡り合った二人の少年の物語です。


 あらましは冒頭の通りで、物語の主人公は田舎町でチェロを弾く少年・鉄雄。田舎町でチェロというとなかなか違和感がありますが、祖父がチェロ収集を趣味としており、それがきっかけになっているようです。レッスンは隣町にまで通っており、その腕前は確か。先日東京で開催されたコンクールで、見事優勝を果たしています。けれども、田舎町の小学生達はチェロになんか興味がありません。一緒にチェロをやっていた兄は既にチェロをやめてしまい、誰ともつながりのない中でチェロを弾く孤独感を抱えたまま、日々を送っていました。



兄はチェロを辞めてしまい、学校のやつらはチェロのことなんか何もわかっていない。「誰かとチェロを弾きたい」そんな欲求を抱えたまま、鉄雄はチェロを弾いている。


そんな彼の毎日に変化が訪れたのが、沖で起きた海難事故。海に投げ出された少年・郁未は、岸から聞こえてくる”声のようなもの”に導かれるように、奇跡的に浜まで流れ着き、生き延びます。唯一の肉親であった母は海難事故で他界。身寄りの無い彼は、組合長をしている鉄雄の家で一時引き取られることになります。親を失った哀しみと、死の淵に立ったショック、さらにハーフというその見た目などもあり、孤立。そんな中、鉄雄が奏でるチェロの音色を耳にして、あの日自分を浜へと導いた音がそれであったと気付きます。以来、同い年ながら鉄雄に懐いた郁未は、片時も離れず鉄雄を行動を共にし、いつしか彼に教わりながら、チェロを弾き始めるのですが…というストーリー。


 ここまでくればなんとなくどういうお話を辿るのか想像が付きそうですが、郁未は鉄雄を圧倒する才能を発揮しだすようになり、二人の関係性は徐々に変わっていきます。こと音楽や楽器をモチーフにした作品では、良い環境に恵まれた凡才と、音楽と関わりの無さそうな環境から出てきた天才が邂逅するというシチュエーションがよく描かれます。代表的なところで言えば「ピアノの森」なんかがそうですかね。女性向けマンガでいうと、「101人目のアリス」などもそうですね。大抵は天才側がメインとなり、凡才側の心情は一時フォーカスが当てられながらも、結局のところは添え物的に描かれる印象が強いのですが、本作の場合は主人公が主人公だけに、おそらく凡才側の葛藤がメインで描かれるのではないかと思われます。私はそちら側の視点が圧倒的に好きなので、本作については大いに期待をしたいところ。


 また厄介なのが、郁未の鉄雄に対する信奉が「好き」とか、そういうレベルでないこと。海難事故で命を救われるきっかけとなったわけですから、もう崇拝に近い印象で、幼くして「俺の人生をお前にやる」なんて言っちゃったりするわけです。これもジレンマを生むための物語上の「仕込み」になるわけですが、自然な形でその関係性を作っていくのはやはり難しいのでしょう。正直なところ「お前らほんとに小学生かよ」と言いたくなるような、演劇じみた台詞回しが多いのが、人によっては気になるかも。かく言う私も気になった口なのですが、ここまで深く絡ませるためには致し方ないのかな、と納得しています。あと、ちょっと異様に距離が近いのでショタホモ感もちょっとあります(管理人は嫌いじゃない)。



「決して孤独にさせない」その時にはこの上ない救いとなったその言葉は、チェロの才能が明らかになった時にどう響くのか。


 1巻はその才能が明らかになった所で終わっており、物語としては2巻以降に本領発揮ですかね(1巻でも十分に惹きつけられますが)。この手のお話はある程度巻数を続けて、じっくりじっくり心情をなぞっていって欲しいわけですが、本作はどのように風呂敷を広げ、畳んでくるのでしょうか。ちょっとばかし救いを見せてサラッと終わらせることは簡単ですが、ここまで深く潜ったならば、最後まできっちりと紐解いて終わってほしいところ。切なさや嫉妬心のようなものが掻き立てられる、なかなかに読み心地のよろしくない作品ではありますが(良い意味で)、そういった作品がお好きな人にはうってつけ。読み終わった時に、何かしらの痕が心に残っていることでしょう。



【感想まとめ】
恋愛も何もない、チェロと、一番の親友だけがいるという物語ですが、否応なく惹きつけられる魅力ある物語でした。「さよならソルシエ」で肩透かし食らっているのでまだ信用しきっていないのですが(笑)、続きが楽しみな一作です。



作品DATA
■著者:穂積
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:flowers
■既刊1巻



ためし読み