■立ちはだかる現実と葛藤しながらも生きていく小学生たちを描いた衝撃のデビュー作『小松田くんは謝らない』を含む全4作品を収録。新鋭・雨宮もえが贈る力強くも透明感溢れる短編集!





 「オルガの心臓」を描く雨宮もえ先生のデビュー作や、同人で発表した作品などを収録した短編集です。短編としてはそこそこボリュームのある4編が収録されています。お話の数もそれほど無いので、各話について感想を交えつつあらましを紹介していきましょう。


 まずは表題作の「小松田くんは謝らない」。主人公は優等生の女の子・加島さん。隣の席の小松田くんは、無口で無愛想でちょっと汚いから、いつもいじめられています。そんな彼の家は、加島さんの下の階。自分のことを謝らない小松田くんのことをよく思っていない加島さんでしたが、ある日彼の秘密を知ってしまい、彼と込み入った話をするようになります。小松田くんも、加島さんも、形や深刻さは違えど家庭の事情を抱えており、小学生ながらに思い悩み鬱屈とした日々を送っています。そんな二人がその鬱屈を共有し、弱い力ながらも前に向かって進んでいく、そんな重苦しさの先に見える希望みたいなものを感じることの出来る物語でした。社会的メッセージの強い背景を落とし込みながらも、最後はしっかりと読み物として成立させていて、「すごいの読んだな」というのが率直な感想。こういった雰囲気の作品を読めるのも、BE LOVE/ITANの系列だからこそなのかもしれません。



小学生なりの苦しみ。ぶつかり合い。必死に生きて、前に進もうとしています。


 2つ目に収録されているのは、親友の出産に伴い、その長男を一時的に預かることになった女性のお話「桃の香りの男の子」。お兄さんになるということに対して、不安と不満を覚える少年の悩みと、そんな彼に対して救いの手を差し伸べる主人公の姿が印象的な一話です。時間の経過・環境の変化と共にどうしたって形が変わっていってしまう”人間関係”に対して、その中で自分の立ち位置を見出し、どう相手の幸せを願い過ごすことが出来るのかという、割りと普遍的かつ根源的なテーマを、2人の違う視点から描き出します。恋愛要素も極めて薄く(無いと言って等しい)、実に地味な作品ではあるのですが、とても優しく温かいお話でした。いややっぱり地味なんですけどね(しつこい)。


 3つ目の「流木の漂着」も恋愛要素は一切なし。完全に家族関係に絞った、これまた地味な作品です。自身の夢を否定され、音信不通になっていた父親がぎっくり腰になったとの報を受け、数年ぶりに再会し、同居することになるというお話。息子に安定した職につけと口うるさく言う父と、流木アーティストとして細々と生計をたてている息子、数年ぶりの再会でも折り合いはつかず、ぶつかり合ってしまうというストーリーです。双方に想いや言い分があり、男だからというのもあるでしょう、どうにもきちんと伝わらずに関係ばかりがこじれてしまう。かといって謝ることも出来ない頑固者同士……そんな気難しい男2人の衝突と融和が感動的に描かれます。おっさんと若者だけで回す、女性キャラは一切登場しないという、ある意味攻めた構成の作品で、これを掲載・収録したというのはなかなか勇気が要るような気も。


 最後に収録されているのは「ゴールデン・ポートレイト」。こちらは同人誌から持ってきて手直しした作品とのことなのですが、これまでの3編と異なり青春の匂いがものすごい感じられる作品です。写真部に所属する、努力嫌いで無気力な木下は、ある日、陸上部の中原に競技中の写真を撮ってほしいと頼まれて、彼女の写真を撮るようになるのですが……というお話。挫折経験から努力することを辞めてしまった少年が、挫折してもけっして努力をやめずに陸上に打ち込む少女と出会うことで、徐々にその意識が変え仄かに恋心を抱いてゆくなんていう、もうこれ以上無いってぐらい青春ラブストーリーな内容でございます。絵柄のせいなのか、ちょっと懐かしさを覚えるような雰囲気で、ページから自分の高校時代に感じていたような「あの日々」の匂いがしてきそうな感じすら。収録されている中では、表題作かこれかという感じで好きでした。



ニヤニヤしちゃいそうな、甘酸っぱいシーンが挟み込まれます。青春ならではの眩しさがそこに。


 「オルガの心臓」を読んだ時は、凝った作りでちょっととっつきにくいかも…という印象があったのですが、この短編集については通して「わかりやすさ」があり、重苦しかったり切なかったりする内容を描きつつも、不思議とスッと読めてしまう面白さがありました。これまで抱いていた印象から180°変わったというと言いすぎかもしれませんが、そのぐらい自分の中では衝撃がありました。収録作はいずれもファンタジーではなく現実ベースのお話となっているので、次作は是非とも現実ベースでのお話を読んでみたいところです。ともあれ大満足の一冊、オススメです。



【感想まとめ】
IATNレーベルでの刊行ですが、初出を見ると、BE LOVE2作、ITAN1作、同人1作。なんとなくBE LOVEっぽいなあと思っていたのですが、そういうことだったのですね。人と人のつながりをみずみずしく描き出す短編集、面白かったです。



作品DATA
■著者:雨宮もえ
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:BE LOVEなど
■全1巻



ためし読み