■ギターなんかで世界は変わらん。
田舎町で育った茎太は、好きだったギターから手を離し、やりたいこともなくくさっていた。そんな時、おさななじみの茎子が、ずっと続けてきた陸上で、町を出て行くという噂が流れる。旅立ちの日、茎太は駅に向かって全力疾走するが…!?青春が、胸を刺す。大型新人・小鬼36°C、デビューコミックス!





 「この世界の片隅に」がジワジワと話題を集めているようですね。まだ観に行っていないので、上映している間に映画館で見たいところです。さて、今回ご紹介するのは、タイトル的に反対という感じの「あの日、世界の真ん中で」。こちら、小鬼36°C先生のデビュー単行本なのですが、これが素敵な作品でした。レーベル的にあまり話題になりづらいのですが、割りと名作の部類なんじゃないかと個人的には思っております。


 物語の舞台となるのは、関西の田舎町。海と山と川しかなく、都会に出ようにも電車で6時間、バスは一日2本しかなく、陸の孤島とでも言うような場所です。そんな町の高校生・茎太は、不真面目を絵に描いたような学生で、その持て余したエネルギーを何にもぶつけることができず、タバコや喧嘩で停学になるなど、くさっていました。そんな彼の幼馴染が、陸上部の茎子。くすぶっている茎太とは対照的に、陸上で結果を出し続ける茎子は、「他校からスカウトされて引き抜かれる」なんて噂が出るほどに茎太の先を進んでいます。幼い頃からずっと一緒で、いわば運命共同体のような二人でしたが、いつしかその関係は……というお話。



 茎太と茎子。どっちも美男美女というワケではありません。茎太はガサツで無茶しがちな性格で、良くも悪くも育ちが悪そうな感じがよく出ています。一方の茎子も、茎太に負けず劣らずの気の強い女子。口は悪いけどサッパリしている、関西人に抱きがちなイメージをそのまま落とし込んだようなキャラクターです。茎太に対してはツッコミ代わりにキツめにどついたりすることも。


 普段はどちらも素直じゃなく、夫婦漫才のようにぎゃあぎゃあ言い合っているのですが、根っこの部分では想い合っているため、ふと素直になって男女のモードに切り替わった瞬間は、これでいてなかなか可愛らしかったりするのですよ。10代ならではの初々しさはもちろんあるのですが、一緒にいた期間が長いこともあってか、夫婦感も同時に感じさせるという。何はともあれ、文句なしにお似合いという二人です。


 母子家庭同士という同じ境遇に育ち、名前も似ている幼馴染同士。けれども高校生になり、自分は打ち込むことなど何もなく、停学になるほどくすぶっていて、一方彼女は陸上でこの町から飛び出していこうという勢い。互いに想い合っているものの、距離が近すぎて素直になれないし、いざ付き合っても、そのステージの違いは否が応でも感じてしまう。そんな中、一度は閉まったギターを再び手にしてバンドに真剣に打ち込む…。幼馴染との恋愛に、部活にバンドにセックスに、10代ならではの溢れる衝動に……ともすれば”一昔前”と言えなくもない雰囲気の青春ものモチーフを、これでもかと詰め込んだような作品。


 もちろん時代設定は現代ですが、田舎町という舞台設定が、”一昔前の青春”と形容した雰囲気と絶妙にマッチするんですよねぇ。こう、荒んだ感じというか、どん詰まりの感じというか。こんな田舎ではあるのですが、逃げ出せないし、彼らにとっては「世界の全て」。だからこその、このタイトル。そんな世界で、尖った感情がむき出しになったままに疾走・迷走する様子は、まさに青春という感じがして、読んでいて言いようのない感情が湧いてくるんですよね。最近の流行り言葉で表すなら、エモいという感じでしょうか。


 自分の中では「良いB級青春映画を見た」というのが、読み終わっての印象。物語全体で見た時、1巻で起承転結きっちり収まっていて非常に具合が良い。一方で主人公からしてそうなのですが、この作品自体がいわゆる万人受けしに行かない、尖った感じが随所に垣間見えるのもまた良いのです(なので、ハマる人はハマるし、ハマらない人にはハマらないような作品といえるかもしれません)。



 例えば物語のクライマックスで茎太のバンドが弾く曲が、THE YOUTHの「12歳の衝動」という、かなりコアなチョイスだったりするわけですよ。もう「分かる人だけわかればいいんじゃ!」とでも言うようなこの感じ。私はバンドこそ知っていたのですが、この曲は知らず。けれども物語にめちゃめちゃマッチしていることは分かるほどに、この曲が活かされた感動的なラストとなっていました。音楽を描くのって、マンガだと結構難しいと思うのですが、そのシーンの音や匂いや温度がありありと伝わってくるように感じられたのは、描き方の上手さによるものなのでしょう。


 青臭すぎて、尖りすぎて、一歩引いてみるとむず痒くなるような光景がそこにあるのですが、気にせずどっぷり浸りましょう。青春というのは得てして盲目的であり、大人になって振り返ってみるとバカなことしてたと感じるわけですが、そういうのが大事なんです。雰囲気的にに、好きな人はめちゃめちゃ好き、合わない人は合わない…という感じかと思うのですが、それで良いという作品かと。絵柄などみて気になった人は、もう手にとって間違いないかと思いますので、是非。



【感想まとめ】
全体的にセリフ多めでテンポもやや早いように感じるのですが、それは関西弁だからというのもあるかもしれません。作者さんはBLメインで描かれている方で、絵柄やセリフのかけあいなどはまさにそういう雰囲気。好き嫌い分かれそうな作品ですが、私は大好物。オススメです。



作品DATA
■著者:小鬼36°C
■出版社:新書館
■レーベル:ウイングスコミックス
■掲載誌:ウイングス
■全1巻



ためし読み