■結婚って、なんだ。
ハイスペック&容姿端麗な豊川のぞみ・29歳。結婚を意識するのぞみが惹かれたのは、理想とは違う2つ歳上の久慈栄。通称・クジ男。恋愛は上手く回してきたのに、結婚となると、すべてが手探りで戸惑うのぞみ。一緒にいるほど見えてきた、のぞみがダイヤよりも、もっとずっと、欲しかったものは……。





 草川為先生のアネララでの連載作です。タイトルで気づく人もおられるかもしれませんが、前にアネララで掲載していた「今日の恋のダイヤ」のスピンオフ作品となります。「今日の恋のダイヤ」で、武士と呼ばれていた鈴懸さんと男性を取り合った、あざとい系女子社員・豊川さんが主人公です。時間もそれなりに経過して、気づけば豊川さんも30歳を目前にしているという状況。


 見た目が可愛らしくて、当然自分自身でもそれを自覚している彼女。相手にもそれなりのスペックを求めてきましたが、今のところピンと来た相手はおらず、長続きしません。友達からの紹介だったりで、デートをする相手には事欠きませんが、気がつけばもう29歳。ついには友達から「あんた理想高すぎ。結婚したくないの?」なんていうメッセージを貰ってしまうまでになりました。なんで武士なんて呼ばれる鈴懸さんは結婚出来て、自分は望むべく相手と結婚出来ないのか。しようと思えば、相手を選ばなければ出来る、けれど自分はそうはなりたくない……。そんな葛藤に苛まれなる中、2回目のデートで「ない!」と判断して切った、2つ歳上の公務員・久慈栄と再会して……というお話。


 久慈栄は見た目もそこそこ良く、真面目を絵に書いたような人間。女性の扱いに慣れておらず、場をもたせようとどうでも良いつまらない話を次々としてしまうという癖がありました。のぞみに切られたのは、デートの途中でよく当たりが出るという売店で宝くじを買いに並んだから。のぞみも付き合いで1枚だけ買ってみたところ、後日それが5000万円の当たりだったというところから物語はスタートします。この5000万円というのが絶妙な金額で、結婚でもしていれば仕事なんてすぐに辞められるけれど、独り身となると仕事は続けざるを得ないし、いざ何か買おうとしたら親に「自分用にマンション買っときなさい」と嫌に現実を突きつけられるような買い物をさせられるという。宝くじが当たったことは嬉しいことですが、他の出来事も相まって、どん底感はピークに。



極めて冷静なのぞみ。かけひきしながらの恋愛には慣れていますが、かけひきナシの恋愛には慣れておらず、まさにそのタイプの久慈の前では慎重に。


 それまで女性の扱いに手慣れたハイスペックなプレイボーイばかりと付き合ってきた彼女ですが、その反動もあったのでしょう、真面目だけれど一生懸命素朴に触れ合ってくれる久慈に惹かれていきます。惹かれていくと言っても、10代の時のようなトキメキがあるわけではありません。新鮮さと、安心感、そして「この人となら結婚しても大丈夫」という確信。久慈ものぞみのことを好いてくれており、この上ないシチュエーションでもあるのですが、思い描いていた恋愛、そして結婚の様子からは大きくかけ離れているため、のぞみは心の隅にどこか不安を抱え、心の奥底から幸せを満喫出来ずにいるという。


 その全てが幸せで、自分の思い描いていた通りに行くような結婚生活なんてありません。……え、無いですよね?もしあったとしても稀なんじゃないかなぁ、と。私も1年前ぐらいに結婚をしたのですが、自分が思い描いていた結婚までの過程とは大きく異なっていたので、本当にこれで良いのかという感覚は心のどこかにありました。一緒にいつつも、全然相手の知らない部分はあるし、普通に友達だった期間があったからかトキメキというのも無く。ただ「この人であれば間違いない」という妙な確信と、幸福感みたいなものはあって、互いに気を使いつつその想いみたいなものを再認識出来たりすると嬉しいという。多くの人がそうなのかはわかりませんが、自分自身の感覚にリンクするような部分が多分にあったので、グイっと物語に引っ張り込むタイプのお話ではないにも関わらず、食い入るように読んでしまいました。



四六時中相手のことを考えて、身も焦がれるほど……なんてことはありません。けれどふと相手と自分の想いを実感すると、こんな感覚に。トキメキ成分は少なめですが、ちゃんとそこに恋も愛もあるのです。


 社会人になると時間も淡々と進んで、心情の波も激しく動くことは少なくなります。この物語も、ヒロインののぞみが割りと平静とした感じなので、十代向けの少女マンガなどにありがちなドラマチック&ロマンチックな展開・描写はありません。それでいて、きちんと心に届くものはあるのが良いところ。この良いペースで淡々と、けれどもちゃんと転調させるネタやちょっとした感動を入れ込んでくる感じは、麻生みこと先生に通ずるものを感じました。読み心地の良い、大人向けの良作です。



【感想まとめ】
個人的には「今日の恋のダイヤ」の方が好きかなぁ、というか、私はあの作品かなり好きなのでどうしてもそこ比較で見てしまうと……。とはいえ本作も十分に面白い作品となっていますので、ご安心を。



作品DATA
■著者:草川為
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:アネララ
■全1巻



ためし読み