■「命を賭けても守りたいものはあるか?」
「ある」
それが私、城之内はとこ(30)
命かけても守りたい同人誌を身体でかばった結果、気がつけば1996年にいました。13歳になってました。「聞いてないよ、人生!」。カラダは13歳ココロは30歳のアラサー二度目の人生を駆け抜けるッ……!?





 コミックポラリスから登場の、佐々木陽子先生のデビューコミックスです。作品のタイトルからも分かる通り、オタガール(30歳だけどガール)がタイムスリップしちゃうというコメディ。


 主人公の城之内はとこは、書店員をしながらオタク趣味を楽しんでいる三十路女子。もちろん一番楽しみなイベントは、同人誌即売会でございます。今年の夏も、コミケで大量の戦利品をゲットしホクホクで帰路につき、電車をホームで待っていたところ、人波に押し出され線路へ落下。「死んだ」と思ったら、気がつけば過去へとタイムスリップしているではないですか。いきなり1996年に行くわけじゃないのですが、まあ色々あって、最終的には1996年、13歳になっていたのでした。


 中学生に戻ったはとこ、さすがに直後は現実感も無く、亡くなったおばあちゃんも生きていたり仕事に行かなくて良かったりと、むしろポジティブにその状況を捉えます。戻ろうにも、戻り方もわからない。死にかけて過去に飛んだということは、恐らく同じようなことをしなければならないわけで、この日々を生きることにするのでした。





見よ、この文字量を。全ページに渡ってこのレベルというわけではありませんが、かなり情報量は多めで、非常に読み応えがあります。




 これまで長年かけてあつめた同人誌やオタグッズ達は戻ってきませんが、この頃と言えばちょうどオタク趣味にのめり込み始めた時期。懐かしのアニメもやっているし、大人になって思う「勉強しておけば良かった」という思いもまさかの形で報われるなど、案外この状況をエンジョイしてしまいます。筋金入りのオタクが皆々そうなのかわかりませんが、「タイムスリップしたのだから心機一転人生やり直し」という発想には至りません。むしろオタクとしての充実度を向上させる方向に動くというのが面白いところ。オタクは何度生まれ変わったとしても、オタクになるのです(名言)。


 思考こそオタク一本道ですが、描かれるシーンはオタ活だけというわけではありません。中学生ですからむしろ学校生活こそメイン。中学時代は自意識の塊のような状態で、周りとの関係にも苦労をしましたが、一度大人になってしまえば大したことはありません。全く意識をしないで、男子とも子供のように接することで、かつてはなかった恋のイベントまでも起き始めるというのが面白いところ。まあ当人に全くその気はないので、全く意味が無いのですが(笑)





三十路的視点から話すので、なんの意識もなく肩肘張らず。それが男子からしたらドキッとするし、一緒に過ごしている女友達も豹変ぶりにびっくり。




 どうにかして戻りたいというわけでもなく、人生やり直して頑張るぞ!というわけでもなく、物語として一つの方向に動こうという意識はあまり見えてきません。というのも、主人公のはとこが「今」を生きるので精一杯だから。そのためどこか雑然とした印象を受けるのですが、そのまとまりのなさが面白さの源泉でもあるように思えます。そんな中で、1996年頃ならではのオタクネタや、黒歴史などが次々と投入されるわけで、こういう学生生活を送ってきた人からしたらドンピシャでわかりすぎるというものでしょう。ネタがネタだけに万人に分かるものではないし、万人に受けるものでもない。1996年、どのように生きていたかがこの物語を楽しむ重要な鍵となるかと思います。かくいう私ははとこと同年代でありながら、オタク不毛地帯の地方育ちでもあったため、ネタに関してもそこまでピンと来なかったり。



【感想まとめ】
書店でも平積みされているところをよく見かけますね。正直なところ自分はそこまでピンと来ていないのですが、周囲では好反応が目立ちます。読み手は選びそうですが、分かる人にはとっても分かる一作じゃないでしょうか。



作品DATA
■著者:佐々木洋子
■出版社:フレックスコミックス
■レーベル:ポラリスコミックス
■掲載誌:ポラリス
■既刊1巻



ためし読み