■本好きで、気がつけばいつも物語の世界に浸っている少女・綾乃と、わけあって断筆中の小説家探偵・能見啓千。ひょんなことから啓千の身の回りの世話をすることになった綾乃だが、やがて二人に次々と数奇な事件が降りかかり……!?





 「星空のカラス」などを描かれているモリエサトシ先生のITANでの連載作になります。白泉社側でも新作がリリースされており、2タイトルで3冊連続刊行と、フェアが組まれているみたいです。主人公の綾乃は、小説に夢中な学生。少しは現実に興味を持ってくれないかと、親に心配されるほど。そんなある日、母に遠い親戚の啓千を手伝って欲しいと言われます。かつては売れっ子小説家であったものの、右手を不自由にしてペンを握れなくなったため、今は探偵をやって事件を解決している啓千。彼の家に赴くと、そこには綾乃が読みたかった小説がたくさん。すぐにその家が気に入った綾乃は、以来その家に入り浸るようになります。そんな中、彼の周りで事件が起こり……というお話。


 本作のタイトルは「親愛なるA嬢へのミステリー」。表紙では本に囲まれた青年と少女が写っており、いかにも文学ミステリーな雰囲気を漂わせていますね。実際、ヒロインの綾乃は現実よりも小説の世界が好きな文学少女で、青年の能見は元小説家で、今は探偵業をしているという、これまたいかにもな設定。ここからなんとなく想像するのは、「色々な事件が起こる中で、文学要素を絡めつつ、二人力を合わせて解決していく」というもの。概ねその通り進むのですが、一風変わっているのは、それらの事件が全て、能見自身に起因して起こっているということ。





その文章に魅せられた人物たちが数多くおり、心酔の末に良からぬ影響を受け、事件を起こしてしまうという展開。啓千自身が巻き込まれることもあれば、綾乃の近くで事件が起こったりするという。ただの一般人が、事件において探偵という立ち位置で深入り出来るのは、遠からず彼に関係があるからという背景があるのです。啓千がその腕を負傷したのも、多くは明かされませんが、恐らく彼自身が引き金となっています。




 犯人たちは洗脳されてるんじゃないかってぐらい結構やべーやつらが多く、この狂気に満ちた感じもいかにもな感じがして良いですね。啓千自身もどちらかというと暗い印象で、ヒロインの綾乃が唯一元気に、物語に明るさを添えています。文学少女という設定ではありますが、見た目は小柄で短髪と、いかにも動き回るのが好きそうな子。その通り、物静かというよりは動くべき所はしっかり動くというキャラクターで、他のキャラクターとの対比によって、物語の中でキラリと存在感を示しています。





物語好きのインドア派ながら、夢中なものに対してはとことん好奇心と楽しさが全面に出てきて、とても明るく映ります。




 儚げなメインキャラクターに加え、ハッキリとした悪意を持つ周囲の人間との対比と隔絶というのは、いかにもモリエサトシ作品という雰囲気で、既存のファンは納得というところではないでしょうか。ここに身も焦がれるような愛情が入ってくるとなお良いのですが、そこはまだまだ薄いといったところ。これも巻を重ねて徐々に育まれていくのではないでしょうか。1巻時点では恋愛感情というよりも、親近感だとか大切さみたいなものが先行したより根源的な部分でのつながりが強調されていますね。


 普通であればこんな事件に次々巻き込まれる時点で嫌になってしまうものですが、綾乃は全く意に介さず、むしろ啓千自身に興味を持ってその距離を縮めていきます。これまで本の中の物語にしか興味が無かった彼女でしたが、小説よりも物語めいた彼との日々に、より興味を持ち惹かれていくというのは、いわば必然なのでしょう。改めて素敵な関係です。


【感想まとめ】
白泉社より同時刊行の「しかない生徒会」が、「え、これほんとにモリエサトシ作品なの?」というぐらい無茶苦茶なキャラコメディを展開しておりびっくりしたのですが、こちらはイメージから外れない作風でちょっと安心したという、個人的なお話。



作品DATA
■著者:モリエサトシ
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■既刊1巻



ためし読み