■男の子のようにふるまう少女・朔。そんな彼女が初めて恋をしたのは、女の子のような長い髪をした少年・希だった。「初潮」「声変わり」「初めてのブラジャー」、そして「初恋」……。
 心も体もまだ不安定な、小学生から中学生の間の四年間を描いた、甘酸っぱい思春期ストーリー第一巻。





  KUJIRA先生が描く恋する女の子ってのは、どうしてこうも一途で切なくて可愛いんでしょう。「優しい針」の結子を彷彿とさせる、素敵な片想い少女が、そこにいました。


 物語の主人公は、まるで男の子のようにふるまう少女・朔。4年生のときに2つ歳上の兄が交通事故で亡くなり、母の悲しみようが尋常で無かったことから、死んだ兄の代わりに自分が男の子になろうと決め、以来そんな振る舞いをしているのでした。口調はガサツで、男の子との喧嘩だって負けたりしません。そんな彼女が初めて興味を持った異性が、同じクラスの西岡希。男の子なのに、長い髪の毛をしていてまるで女の子のような希。見た目こそ女の子のようですが、中身は大人っぽく落ち着いていて、自分の意思をしっかり持った「男の子」。初潮の訪れや、中学入学に向けて制服の採寸をしたりと、ずっと男の子ではいられないことを目の当たりにして戸惑うなか、女の子としての朔を「自然」だと受け入れてくれた希に、いつしか朔は恋していたのでした……





互いの言葉があったから、変わりゆく自分を受け入れることが出来た。




 希が髪を長くしていたのは、親が女の子が欲しかったから。どちらも親を思っての行動でした。けれどもやがて、第二次性徴が訪れます。初潮に声変わり、中学に入れば学ランにスカートと、嫌でも男女の色が付けられるのです。そんな未来を前に、互いを「男の子」「女の子」として認め合い前向きになれた、なんだか特別な関係。朔はそれを恋心として育ててゆくことになるのですが、一方の希からはそんな雰囲気は窺えず。もちろん他の人よりも特別なポジションにいる自覚はありますが、自分の臆病さも手伝って、思いを告げられないままに時は過ぎていきます。小学生の時は敵対していた男女が、中学生になれば色恋の対照として互いを見るように。そして朔にも、やがて恋人が出来、あえなく朔は失恋をするのでした。


 「優しい針」の結子もそうだったのですが、気が強そうに見えて実はめちゃめちゃ臆病で、大事に大事に自分の思いを育て続けているというヒロインがとにかく素晴らしい。素直になりきれず、勇気もなく、心の中の喜びも表になかなか出せないでいて、哀しみだってこらえてしまう。ちょっとしたことに期待を膨らませ、ちょっとした出来事でずんと落ち込む。おとなになり始めた思春期ならではの不器用さや繊細さをそのまま形にしたようなその姿や行動が、いちいち眩しくて切なくて、心奪われます。とにかく一途で、その思いが報われてほしいと読んでいて心から思うのですが、彼女に与えられるのは喜びよりも哀しみの分量の方が多いんですよね。KUJIRA先生の描く物語は往々にしてビターですが、本作も例に漏れず。青春ならではの甘酸っぱさと、持ち前のほろ苦さが絶妙にマッチしています。





はじめての恋、はじめてのブラジャー。この作品を象徴しているかのような一コマ。




 そんな心の動きがつかみ取りやすい(主人公だから当たり前ですが)朔とは対照的に、希はびっくりするぐらい心の打ちを見せない男の子です。必死で隠そうとしているわけではなく、むしろ驚くほど自然体で悠然としている。「大人っぽい」の一言で片付けられていますが、いや大人っぽいというか達観しているというか、ちょっと普通の子供ではない感じがビシビシと感じられます。カッコよくはあるんですが、ちょっと人間味に欠ける印象もあったり。


 そしてそんな希の存在を中和するためなのか、脇役一番手として登場する男の子・有川がめちゃめちゃ人間味溢れるキャラクターで面白いんですよ。小学生時代は率先して女子にちょっかいをかける典型的な悪ガキ。中学に入ってもそのキャラクターは健在ですが、ある日突然朔を意識してしまい、好きになっちゃうという分かりやすすぎる純情ボーイでございます。もちろん朔からは見向きもされないわけで。どう接してよいのか分からずモヤモヤする様子もまた中学生あるあるで、見ていて楽しいのです。


 出だしこそなんとなく「放浪息子」を彷彿とさせる組合せですが、本作は第二次性徴や思春期のエピソードを落とし込みつつも、あくまで主軸は恋愛であり、朔の恋心を中心にして物語は動いていきます。中学生の酸い甘いを描く作品は結構好きなのですが、ここまで心惹かれるヒロイン・物語は今までにあったかどうか。「優しい針」でも所見でガツンと心持っていかれたのを覚えているのですが、本作でその衝撃再び。並行連載している若手漫才コンビを描いた「万歳!」は個人的にあまりピンと来なかったのですが、こちらは大ホームランでした。



【感想まとめ】
目をみはるような展開や設定があるわけではないのですが、心掴んで離さない面白さがありました。4年間の物語ということで、次で完結ですかね。今のところ今年の新作では一番かな、、、だからKUJIRA先生の作品はやめられない。オススメです。



作品DATA
■著者:KUJIRA
■出版社:KADOKAWA
■レーベル:it comics
■掲載誌:シルフ
■既刊1巻



ためし読み